懺悔と、三人の恩人

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「そんな、そんな事は、それは……大丈夫。びっくりしたけど、大丈夫。大丈夫だけど………、私を利用したって、どういう意味?」 彼女なりに理解しようとしてくれているのが伝わってきて、それが嬉しく思った。 三度の ”大丈夫” に、僕は間違いなく励まされた。 「………僕が事故に遭った事、当初は伏せられていたんだ。跡継ぎである僕に後遺症が残ったなんて知られたら父の仕事にどんな影響が出るか計りきれなかったから。子供だった僕も精神的に参ってたからちょうどよかった。だけどリハビリも含めて半年以上の入院になって、時間を持て余した僕は、事故のニュースを細かくチェックするようになった。”ピアニストの卵、絶望的” 見出しはきみの事ばかりだった」 「私…?」 咄嗟には気付かない彼女の代わりに、追究してきたのはお兄さんだった。 「まさか、じゃあ宗くんもあの事故で?」 僕は「ええ」と頷くと、また彼女に語りかけた。 「僕の素性が伏せられたばかりに、きみが目立つ結果になってしまって、申し訳ないと思った。でも同時に、僕よりも不幸な人がいるんだと、少しホッとしてしまう自分がいたんだ。きみが本当に大変そうだったから。だからきみが飛び降りようとしてるのを見かけた時、きみが楽になれるならそれもいいのかもしれないと思った。だけどふと考え直した。きみが死んだら、僕より不幸な人がいなくなってしまう。意識不明だった運転手も快復して、後遺症が残ったのは僕ときみだけ。きみがいなくなれば僕一人になってしまう。そう思ったから君を引き止めた。………最低だろ?」 彼女を助けたのは優しさなんかじゃない、自分の為だったんだ。 「……きみには生きててもらわなきゃ。そう思った僕は、父にきみへの融資を提案した。父は事故以来塞いでいた僕が仕事に関心を持ち始めたと勘違いして喜んでくれた。音楽関係者が周りに多い事もあったし、福祉に積極的だった人だからトントン拍子に話は進んで、きみの ”あしながおじさん” が誕生したわけだ。だけど時が経てばきみの事を知る機会も減ってしまうから、そうならないように『21時のピアノ弾き』を条件に付けた。その後のきみを知る為にね。まあ僕が言ったのは『21時のピアニスト』だったんだけど」 僕は彼女を見上げて笑った。 すると彼女は椅子から降りて、僕の車椅子の横に屈んだ。間近で見るその瞳の中には、確かに僕がいた。
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