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「これが ”あしながおじさん” の正体だよ」
がっかりさせてごめんね。
また謝った僕。
けれど次の瞬間、彼女は問答無用に僕を抱きしめてきた。
ぎゅうっと、力強く。
あっという間に腕の中に閉じ込められ、僕は予想外の事に慌てて彼女の腕に手をかけた。
「のぞみさん?」
けれど彼女は腕に力を込めるばかりで。
「のぞみ、何してるんだ」
お兄さんも心配そうに声をかけてくる。
けれど、
「うるさい!」
彼女のひと言が、僕達を貫いたのだった。
彼女の腕の中で僕はギクリとしてしまったが、それでも彼女は僕を離そうとはしない。僕はもう、彼女のしたいようにさせる事にした。
「私は、例え宗さんが私を利用したのだとしても構わない!どんな理由があったのだとしても、あのとき私をこの世に留まらせてくれたのはあの女の子だもの!私にピアノを取り戻してくれたのは ”あしながおじさん” だもの!そして、私に光を取り戻してくれたのは、宗さんだもの!宗さんの顔が見たかったから、私は手術を受けたんだから!」
ぎゅうぎゅうっと抱きしめられながら、僕は、まるで告白を受けた気分だった。
僕の髪に彼女の息がかかり、その体温を感じ、僕の懺悔を聞いてもまだ僕を受け入れてくれてるのだと理解するまでには少し時間がかかったけれど。
でも彼女が腕を解いて体を離し、僕の顔をじっと見つめてきたら、今度は、胸が、いっぱいになってしまった。
真実を打ち明けた後、僕がそれまでに思ってきた事を知られてしまったら、もう、今までみたいな関係ではいられなくなると思っていた。
彼女は僕との恋愛を始める為に手術をするのだと言っていたが、それならば僕は、彼女と恋愛する前に、彼女にしてきた事、抱いていた感情を告白する必要があると思った。そうしなければ、僕を好きだと言ってくれた彼女の前には立つ事さえできないと思ったからだ。
「宗さん、やっぱり高校生には見えないよ」
彼女の目から、一筋の涙が零れた。
「でも聞いてた通りイケメンだね」
涙で潤んだ彼女の瞳も、綺麗だ。
「手術の朝にね、パパとママが言ったの。”あしながおじさん” は、本当に私の事を心配してくれてる。あなたは幸せ者ねって。宗さんがどんな風に思ってたとしても、パパとママはそう感じてたの。私はパパとママの言葉を信じるわ。だってそうじゃなきゃ、私に手術を勧めたりなんかしない」
違うんだ、それはただ僕のことをきみの目に映してほしかっただけで……
けれど彼女は僕の言い訳なんか全部無効だと言わんばかりに、僕を丸ごと受け入れた。
「ねえもっとよく顔を見せて?」
そう言うなり、彼女は僕の両頬に手のひらを添えた。そして指でそっと撫でて
「よかった、のっぺらぼうじゃなくて…」
いつもの彼女らしい、冗談口調で、でも目にはたっぷりと涙をためて言ったのだった。
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