浴衣と花火と恋心

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大きめの花火が立て続けに上がって、 少しの間だけ昼間みたいな明るさになった。 ユートは前と違ってちょっと日焼けしてて なんてゆーか、男っぽさが増した気がする。 「こ、こんばんは…っ///」 「おー、すげー偶然!つーか大丈夫か?  花火見てるようには見えなかったけど。  ひとりだし…」 「あ、うん。ちょっとはぐれちゃって…」 久しぶりだったからちょっと緊張したけど、 ユートのほうから積極的に話しかけてくれて いつもどおりでなんかホッとした。 気になる法被姿だった理由。 実行委員会のメンバーだった お父さんの代役らしい。 聞くよりも早くここ何日かの近況を いろいろ聞かせてくれた。 「それでさ、腰痛めた親父の代わりに  俺がやる事になったんだけど、  ボランティアなんだってさ…  バイト代くれーって感じ。」 「じゃあ、ちょっと待ってて。」 「え、なになに?」 私はいったん話を切ると、 側にあった自販機で目に留まった ジュースを買ってきてユートに手渡した。 「なんかいろいろお疲れさま。  これ、好きだったよね?  いつも教室で飲んでたやつ。」 「うおー、ねぎらわれた!  しかも好きなやつ知ってるし!  ヤバい、しみるわー。」 ユートはいっきに飲み干すと、 目に輝きを取り戻した。笑 「サンキューな、マジ生き返ったわー♪  そういやさっきはぐれたとか言ってたけど、  連絡つかねーの?スマホとか…」 「忘れて来ちゃって…  中央やぐらに行く途中までは  いっしょだったんだけど。」 「じゃあそんなに離れてないんじゃね?  実行委員だけ通れる道があるから、  連れてってやるよ♪」   ユートは鍵束を得意そうに取り出すと、 花火の見物客でごった返している通りから 屋台も出せないくらいの狭い通りに入っていく。 「この先行き止まりって書いてあるけど…?」 「神社の裏手に出るんだよ。  普段は山の管理する人だけが使う道で  フェンスで塞がれてる。」 「そうなんだ。」 お祭りの喧騒から少し離れて、 カコカコと下駄の音を鳴らしながら ユートの後ろについて歩く。 「その髪、席替えした時の、だよな?  すっげー似合ってる…と思う、浴衣と。」 「…あ、ありがと///」 ユートはあの日の事を覚えててくれた。 あの日の事がきっかけで このアレンジの練習をずっとやってきたから、 ちょっと嬉しかった。 でも咄嗟にお礼の言葉しか返せなくて。 こーゆー時にもっと気の利いた事が 言えたらいいのに。 月明かりに照らされて歩きやすかった道は フェンスの先からはいきなり山道って感じで 暗がりの中を気をつけながら進む。 「足元、気をつけろよ。」 「…う、うん///」 歩きにくそうにしていると、 ユートが手を引いて歩いてくれた。 なんかすごく自然に手を 繋いでしまったんですけどっ…/// 思ってたより山道はそんなに長くなくて、 提灯の明かりが見えてくると お祭りの喧騒とお囃子も聞こえてきた。 「はぐれたのっていつもの面子だろ?  先に着いてびっくりさせてやろーぜ。」
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