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頭を撫でられ、その手が心地良くてもっともっととお願いしていた。それから、時おり耳たぶを触られる感覚がくすぐったくて笑ってしまった。次第にそれらが夢だと気付き、重たいまぶたを持ち上げる。すると、ベッドの端に腰を下ろし、私を見つめている直人がいた。確認するように、じっと彼を見つめる。
「……直人?」
「ん、ただいま」
「おかえり。ごめん、寝てた……」
「ううん、先に寝ててって言ったの俺だから」
顔が疲れているのが、眠い頭でも分かる。
「私、お風呂まだ」
目をつむったままで彼に言う。
「いいよ、明日にすれば」
「うん……」
冷蔵庫の中のチョコレートケーキが頭を過る。だけど、それだけだった。
「シャワー浴びてくる」、そう言って寝室を出た直人が、そのあとベッドに入ってきたことには気付かなかった。けれど、背中越しに抱きしめられ、夢と現実の区別がつかない頭でも、その温もりは彼のものだと認識できた。
回された手を無意識に握る。安心感から、再び深い眠りについた。
カーテンは締めたはずなのに、まぶたの向こうが明るい気がして目が覚めた。ベッド脇に置いたスマホを感覚だけで探し、電源ボタンを押す。明るい画面に顔をしかめながら時間を見ると、六時三十二分だった。
彼を起こさないようにそっとベッドから抜け出す。細心の注意を払って寝室のドアを閉め、廊下へ続くドアもゆっくりとドアノブを上下させた。
シャワーの音だけはどんなに気を遣っても無理だけれど、ドライヤーを使うのは後回しにした。
再び彼の部屋着を着てから、バスタオルを頭に巻きつけた。
熱々のコーヒーをちびちびと飲みながら、体の内側から温まる感覚に大きく息をついた。
とりあえず、おかえりは言えた。次は、笑顔でおはようを言おう。そんなことを考えていると、ドアが開く音がした。
「おはよう、もう起きてたの?」
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