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「まだ連絡取ってたの? て言うか、まだ好きなの?」
ちらりと私を見てから、再び正面を向いて深々と座り直した。
「なんだよ今さら」
そう言った横顔を見ていられなくて、下唇をぎゅっと噛んだ。
「なんでだよ!」
突然声を荒げるから、呼吸が止まる。
「なんでそうなるんだよ。て言うか、なんで元彼なんだよ」
今度は淡々とした口調だった。それが余計に、怖いと思った。
「直人が聞いてくれるなら、ちゃんと話す」
「言い訳?」
「そう思うなら、それでいい」
しばらくして、鼻から大きく息を吐き出すと、「それで?」と言った。
「会ったの、智史と。直人が出張で海外行ってる時に」
なんだよそれ、独り言なのか、私に向かってのそれなのか、区別のつかない言い方だった。
「たまたま連絡があって、久しぶりに会いたいって言われて、それで……」
「会ったのは一回だけ?」
「……三回」
彼の目が、見開いていく。
何か言いたげに口を開くけれど、それだけで、言葉の代わりにぐっと眉根を寄せた。
罵倒された方が、よっぽどましだ。
全部、私が悪い。分かってる。だけど、説明のつかないモヤモヤが、お腹の底から込み上げてくるようだった。
「会いたいって言われて、優しくされて──」
ここまでくると、隠している方が難しい。
「昔のこと色々思い出して、懐かしくなって。まだ好きだって言われて、嫌な気はしなかった。正直、気持ちが揺れた。だって、寂しかったから」
言った途端、鼻の奥がつんとなった。寂しかった。本当は、その一言をずっと言いたかった。
「直人に会いたくてもなかなか会えなくて。仕事が忙しいの分かってるのに……」
自嘲気味に笑うけれど、うまく笑えていたかはよく分からい。
「ごめんなさい」
「何もなかったんだよね?」
そうであってほしいと願うような視線に、みぞおち辺りをぎゅうっと押されているような気分だ。
すぐに答えられない私に向かって、同じことをもう一度聞いた。だけどやっぱり、うまくは答えられなかった。
「何してんだよ……」
声こそ小さいものの、その一言には、色んな感情が詰まっているようだった。
「そいつのとこ行けば」
「嫌!」
ほとんど言葉が重なっていた。
彼は、意味が分からないと言った顔をしている。
「なんで嫌なわけ?」
「分かんない」
「俺の方が分かんないよ。そいつのこといいように利用しただけ? それとも本気? これなら簡単な質問だろ」
「そうじゃない!」
「何がだよ!」
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