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第十話▽婚約解消と特攻服と母親二人の秘密
瑞原さんは特に
何かしてくることはなかった。
そんな穏やかな日々が過ぎ
今日は侑君の実家に行く日。
『実家に行く前に
倉庫に寄っていいですか?』
忘れ物?
『勿論、いいけど
何か取りに行くの?』
『特攻服を』
そういうことか。
倉庫に寄り、侑君の特攻服を持ち
侑君の実家に向かった。
一言で言うなら豪邸。
『茉緒さん、行きますよ』
侑君に手を引かれながら
後をついていく。
玄関先で出迎えてくれた二人は
物凄く若かった。
『由々波達はもう来てますか?』
「あぁ、とりあえず侑司も
君も入りなさい」
侑君の父親に促され
靴を揃えて上がった。
隣にいる侑君母は
ニコニコしている。
リビングに着くと
瑞原さんと瑞原さんの両親がいた。
「何で、あんたがいるのよ!?」
予想通りの反応をどうも。
「侑司君、彼女は?」
瑞原さんの母親が訊いた。
『侑司さんとお付き合いさせて
頂いています
華表茉緒里と申します』
あたしの呼び方に
侑君の眉間にシワが寄った。
『茉緒さん、
何時もの呼び方にしてください』
指で丸を作り、オッケイのサインをだした。
「侑司、どういうことだ‼」
『どうもこうもありませんよ。
今日は由々波との婚約解消を
お願いしたく、こちらに
足を運んだまでです』
「侑司、茉緒里さんを愛しいるの?」
今度は侑君母が訊く。
『茉緒さん“を”愛しいるのではく
茉緒さん“しか”愛せないんですよ。
それに、茉緒さんは一生私のもので
いてくれると言ってくれましたし、
私も一生茉緒さんのものでいると
約束しました』
侑君の答えに満足したのか
侑君のお母さんはあたしを抱きしめた。
ぇ!?
軽くパニックになる。
「侑司が幸せになる道を
選べばいいのよ」
あたしから離れた侑君母は
侑君の目を真っ直ぐ見てそう言った。
『ありがとございます、母さん』
「侑司には恋人がいるのだから
由々波ちゃんとの
婚約は解消でお願いするわ」
お母さんの言葉に絶句したのは
当然、瑞原家の三人と侑君父
『此所に足を運んだのには
もう一つ目的があるんですよ。
茉緒さん、あれ、出してもらえますか?』
あたしは手に持っている紙袋から
綺麗に畳まれた特攻服を取り出した。
『はい、侑君』
渡した特攻服を
広げて羽織った。
『由々波には再会した日に話しましたが
私は今、“雨竜”という
暴走族の副総長をしています』
特攻服の背中には
【雨竜五代目副総長】と刺繍されている。
それを見て侑君母は呟いた。
「わたしに似ちゃったのね」
お母さんの言葉に
侑君と二人で首を傾げた。
「少し待っててね」
あたし達にそう言うと二階へ登って行き
十分程するとさっきのあたしみたいに
紙袋を持って戻って来た。
「わたしも昔は
レディースの副総長だったのよ」
紙袋の中から出したのはやっぱり特攻服。
背中には【白雪二代目副総長】
と刺繍されていた。
【白雪】!?
昔、雪花と同盟を組んでたっていう!?
『昔、雪花と同盟組んでたんですよね?』
あたしの質問にお母さんは
「よく知ってるわね」と笑った。
『あたし、元々は雪花の姫だったんです』
【白雪】のことは姫だった頃に
連陏から聞いた。
「あら、でも今は雨竜の姫なのでしょう?」
『はい。
ですが、喧嘩もしますよ』
四人はあたし達の話しに
ついてこれていない。
『まさか、母さんが
レディースの副総長だったとは驚きです』
侑君の台詞にお母さんは苦笑した。
「あの頃はとにかく
喧嘩ばかりしてたわね」
当時を懐かしむように話してくれた。
「財閥の家に生まれたっていうのが嫌で
反発するように毎日喧嘩してたある日
【白雪】の初代総長に拾われたの」
「侑司達の学校に
雪花の元総長と副総長がいるわよね?」
担任と理事長のことだ。
『えぇ、
元副総長は茉緒さんと
由々波の担任で元総長は理事長ですよ』
「騎羅君が理事長か~
克也君はよく教員免許取れたわね」
『母さんは二人を知っているんですか?』
呼び方からして親しそうだ。
「当たり前じゃない、
同盟組んでた
族の総長と副総長よ」
同世代だもんな。
「実はね、当時は
騎羅君が好きだったのよ」
理事長を!?
完璧に四人を忘れて
過去を話してくれる侑君母。
ぁっ‼
そういえば名前きいてないや。
『あの、今更ですけど
お名前お伺いしても?』
あたしの台詞に侑君が笑った。
『あの時もこうでしたね』
あたしが礼君に倉庫へ
連れてこられた時のことだよな。
「あらやだ、じゃぁ
改めて、天城柚紀祢です」
『柚紀さんとお呼びしてもいいですか?』
これもあの時、
侑君にした質問と似ている。
「勿論よ*♬೨
わたしも“茉緒”って呼んでいいかしら」
似た者母子。
『そう呼んで頂けると嬉しいです♡』
「そういえば、
侑司も“茉緒さんって呼んでるわよね?」
泉と被るからな。
『雨竜の幹部の一人が
“茉緒里さん”と呼ぶので
私は“茉緒さん”と呼んでるんです』
あとは多分、あたしの真似だ。
あたしが“侑君”って呼ぶからだろう。
「そうなのね。
侑司、今度雨竜の倉庫に
連れてってくれないかしら」
懐かしいのかな?(クスッ)
『私は構いませよ』
あたしもいいと思うけど
雨竜の皆が吃驚しそうだ。
「本当?
雨竜全員が揃ってる時がいいわ」
『わかりました』
柚紀さんも吃驚するだろうな。
雨竜は上下関係なんて関係なく
フレンドリーで家族みたいで仲良しだ。
★━━━━━━━━━━━━━━★
そんな話をしていると
瑞原さんが叫んだ。
「何で、あんたなのよ‼」
あぁ、また侑君がキレるなぁ。
「そうだ侑司君
うちの由々波じゃ不満かね?」
瑞原さんの父親も娘に便乗する。
『由々波、
同じことを二度言わすな‼
それから瑞原のおじさん
“俺”は茉緒さん“しか”
愛せないと
宣言したはずですが?』
やっぱりキレたな……
わかってたことだけど。
「あら、あんなとこまで
わたしに似ちゃったのね」
柚紀さんんが小さく呟いた。
『“あんなとこ”とは?』
「茉緒には聞こえてたのね。
キレると口調が変わるとこよ」
柚紀さんも?
「因みに、わたしはキレると
男口調になって暴言を吐くわ」
こんな綺麗な人が……
あぁ、成る程
あれは全部柚紀さん譲りなのか。
整った顔立ちも、
キレると口調が変わるとこも
副総長をしてることも。
因みに、侑君はキレると毒舌になる。
『あの日も言ったよな?
“茉緒さんを侮辱するな”と。
それとも、言葉の意味を
理解できない程馬鹿なのか?』
侑君の毒舌マシンガントークが始まった。
『あなたも父親なら
娘に便乗していないで
諦めることも教えたらどうなんだ?』
我が儘にも限度がある。
ましてや、侑君は“物”じゃない。
返事をしない瑞原父子に
侑君は更に声のトーンを下げて睨んでいる。
延々と続きそんな侑君の
毒舌トークを止めなきゃな。
『侑君、
何時も言ってるけど
あたしは気にしちゃいないから』
雪花を追い出された時も
雪花に捕まった時も
瑞原さんに“何であんたなの”
と言われた時も全部気にしちゃいない。
『よかったな由々波、
茉緒さんに止められたから
此処までにしといてやるよ』
瑞原さんは
悔しそな表情(かお)をした。
そう言えば、瑞原さんの母親は
あれ以来話さないな。
「瑠花、わたしだけに言わせるつもり?」
状況からして瑞原さんの
母親のことだよね?
『瑠花さんも何かあるんですか?』
口調が戻ってる(笑)
侑君も疑問に思ったらしい。
「わかったわ、
白状するとわたしは雪花の元姫で
由々波達の担任と付き合ってたのよ」
瑞原父子は母親の告白に驚いている。
話についてこれていなかったのは
“三人”だったわけか。
「茉緒は姫だけど
喧嘩するって言ってたでしょう?
瑠花も姫だったけど強かったのよ」
それは凄い‼
『お二人に喧嘩を教わりたいです(笑)』
すっかり、置いてきぼりの三人。
「家庭に入って随分経つから
腕が鈍ってそうだけれど
いいわ、今度雨竜の倉庫に
行った時に教えてあげる」
柚紀さんが了承してくれた。
『ありがとございます*♬೨
侑君に中々勝てなくて
ちょっと悔しかったんですよ』
連陏も理事長から聞いたらしいけど
柚紀さんはとても喧嘩が強く
仲間思いの人だったらしい。
「柚紀だけ狡いわ。
わたしも雨竜の倉庫に行っていいかしら?」
『勿論ですけど、バイクどうしましょう?
私は茉緒を乗せるのでお二人を
倉庫に連れていく手段が……』
それもそうだ。
車で行くと目立つしな……
「侑司、気付いてなかったの?
車庫の奥にもう一台バイクがあるの」
考え込んだ後、何かを
思い立ったらしい侑君は
“あっ”という表情(かお)をした。
『もしかして、たまに車庫から
戻って来るのが遅い時が
ありますけどバイクのメンテしてたんですか?』
「そうよ、だから
瑠花はわたしが乗せてくわ」
これで解決したな。
『では瑠花さんは
母さんのバイクで来てください』
完全に三人を忘れて
予定をたてていくあたし達。
『あの、あたしも
〈瑠花さん〉っ呼んでいいですか?』
侑君は幼なじみの母親だから
昔からそう呼んでるんだろうけど
あたしは初対面だ。
「勿論よ*♬೨
わたしも“茉緒”って呼んでいいかしら?
それから侑司君、
由々波との婚約は解消でオッケイよ」
よかった。
侑君もホッとした表情(かお)をしていた。
『是非、そう呼んで
頂けたら嬉しいです』
三人が呆けている間に
予定が決まって行き、
あたし達は帰ることにした。
『母さん・瑠花さん
私達はそろそろ帰りますね』
「気を付けてね」
『また、連絡します』
柚紀さんと瑠花さんに
お辞儀をして、侑君の実家を出た。
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