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「うちのツートップは最高です。タイプは違いますけど、どっちも捨てがたいくらいに最高。なのに、どっちも未だ独身ってすごくないですか!?」
前のめりになる谷山に、美青は慌ててまぁまぁと宥める。
谷山の言うとおり、ツートップは正反対といってもいいほどタイプが違う。だが、容姿が整っているという点では共通している。
小畑は全体的に色素が薄く、髪も瞳の色も茶系。色白で線が細く、正統派美青年と言えるだろう。王子様といって差し支えない。それに対し一颯は、小畑が白なら一颯は黒、といったように、髪も瞳も漆黒。男らしいガッチリとした体格で、身長も平均より高い。分類されるならワイルド系になりそうだ。どちらがよりモテるかといえば、それはもう好みの差だろう。
「あの二人なら年下でも関係ないです。むしろ、年上の色気でメロメロに悩殺したいですっ」
「年上の色気……」
そんなものは自分には一切ないな、と美青は思った。谷山も色気ムンムンといったタイプではないが、いざとなったらそうなるのだろうか。なるのだろう、なんとなくそう思った。
「美青さん!」
「は、はいっ」
ビクッとして飛び上がる。真剣な目をする谷山に、美青は何を言われるのかと怯える。
一颯との仲を取り持てなどと言われたらどうしようか。そんなことを言われても、美青にはどうしようもない。
「一颯さんの好みってどんな女性ですか?」
「へ……?」
「だってー、どれだけ頑張って迫ってみてもノーリアクション、淡々とあしらわれるばかりです。これはつまり、今のままの私じゃダメだってことで」
「はぁ」
「なら、一颯さんの理想の女に近付くしかないってわけですよ!」
なんて前向きなのだろうか。美青も見習った方がいいかもしれない。
「な、七瀬さんは、もう完全に一颯に絞ったんですか?」
すると、谷山はニッと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「二希さんも捨てがたいんですが、二希さんの方が謎が多いんですよね。誰にでも穏やかで優しいんですけど、心の内は全く見せてくれないって感じで、どうにも掴みづらいんです。その点、一颯さんの方がいろいろはっきりしててわかりやすい。それに、一颯さんの方が好みです。あの厚い胸板に飛び込みたいっ!」
「……」
谷山はやはり人をよく見ている。
一颯は好き嫌いがはっきりしているし、一見冷たそうに見えて自分が仲間と認めた中では気を許す傾向にある。だから気持ちがわかりやすいのだ。それは会社での一颯を見ているうちに気付いた。
「で、一颯さんの好みは?」
グイと顔を近づけられても困ってしまう。一颯の好みなど知らない。
「さ、さぁ……?」
「美青さん、お姉さんですよね? これまでの彼女とか、会ったことありません?」
一緒に暮らしていたのは一颯が高校生までだ。少なくともその間には会ったことがなかった。
思い起こしてみて、改めて驚く。あんなに容姿が整っているのだ。おまけに体格もよくて、成績優秀でスポーツもできた。モテないはずがない。にもかかわらず、一度も彼女を家に連れてきたことはなかったし、いるような素振りを見せたこともなかった。彼女の気配は一切感じなかったのだ。
「一颯は大学に入ってから実家を出たんでそれ以降は知らないですけど、それまでも会ったことはなかったです」
「マジですか!? いなかったってことはなかっただろうし、よほど上手く隠してたんですねぇ……」
そう思われるのも無理はないが、おそらく隠してなどいない。本当にいなかったと思う。その頃の一颯は美青を意識していたらしいので、一颯の言葉を信じるとすれば、そうなる。
ただ、大学以降のことはわからない。周りが放っておくとは思えないし、さすがに彼女の一人や二人はいただろう。だが、その頃の彼女を見たわけでもないので、好みなど知りようがない。
「七瀬さん」
別の声がしたのでそちらに目を遣ると、そこにはモデル体型の美女が立っていた。四谷だ。立ち姿まで美しい。
「海鈴さん、どうしたんですか?」
「マチ付のA4封筒ってもうないですか?」
「え? あ、そういえば切れちゃってたかも! すみません、すぐに発注しますね!」
「ごめんなさい、よろしくお願いします」
「はーい!」
谷山は慌てて自席へと駆けていく。入れ替わりに四谷は休憩スペースに入ってきて、美青の隣に腰かけた。
「お疲れ様です」
「お、お疲れ様です……」
「七瀬さんに迫られてるように見えたんですけど、大丈夫です?」
「あ……」
どうやら四谷は気を遣って声をかけてくれたらしい。美青は苦笑しながらペコリと頭を下げた。四谷は本当に目端が利く。
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