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「大丈夫ですよ。七瀬さんの勢いに圧されてましたけど、パワフルだなぁって感心していただけなので」
「それならよかったです。困った顔をしてたんで、厄介事でも頼まれてるのかなと思いまして」
厄介事といえばそうかもしれない。美青でもわからないことを尋ねられていたのだから。
美青は四谷を見てふと思う。同じ大学で同い年、四谷なら一颯の好みも知っているのではないだろうか。大学時代に一颯が付き合った女性というのも、四谷なら知っている可能性が高い。そこまで考え、更に重大なことに気付いた。
四谷が一颯と付き合っていた可能性もある。これだけの美人で、頭もよく、性格も申し分がないのだから。
「美青さん?」
「え、あ……」
「なんか考え込んでません? 七瀬さんに何を言われました?」
美青の顔を覗き込む四谷の視線は、しっかりと美青を捕らえて離さない。誤魔化そうとしても無駄のようだ。美青は早々に諦め、白状した。
「実は……好みを聞かれてました」
「好み?」
四谷が首を傾げる。
「一颯の……女性の好みを」
「あぁ、なるほど」
合点がいったという顔で、四谷はうんうんと頷いた。
「今の状態じゃ、暖簾に腕押しですもんねぇ……。だったら、好みの女性になってやるってことですか。確かにパワフル」
「ですよね」
美青が苦笑していると、不意に四谷が楽しげに口角を上げる。そして美青ににじり寄ると、こそっと囁いた。
「私です、って言ってやればよかったのに」
「えぇっ!?」
「なに二人でイチャついてんだ?」
いきなり男の声がして、美青は更に動揺する。声のした方を見ると、一颯がムッとしたような顔でこちらを見ていた。その隣ではニコニコと笑っている小畑もいる。
「イチャついてるって表現はどうかと思うけど、確かにすごく仲よさそうだよね。目下一颯の最大のライバルは海鈴ってとこかな」
「うるさい、二希」
凄む一颯もなんのその、小畑はそのまま休憩スペースの中に入ってきた。一颯もその後からついてくる。美青はあっという間に幹部三人に囲まれることとなった。
チラチラと彼らを見て、溜息が出そうになる。揃いも揃って仕事のできる美男美女、何とも言えない迫力がある。この中では一番年上のはずなのに、ペーペー感が半端ない。
「美青さん、仕事はもう慣れた?」
人懐こい笑みを浮かべながら小畑に尋ねられ、美青はハッと我に返り、慌てて返事をした。
「はいっ。少しずついろんなお仕事を任せていただけるようになって、楽しいです」
「そっか、それはよかった。尋さんも、美青さんは覚えが早いし仕事も正確で助かるって言ってたよ」
「そんな……。でもそれは、尋さんの教え方が上手なんだと思います。すごくわかりやすくて」
八坂の教え方には全く無駄がなく、筋道を立てて説明してくれるので、仕事の全体像が掴みやすかった。仕事の一つ一つにきちんとした理由があり、そこまでをきちんと説明してくれるので、より必要性が理解できて頑張ろうと思えるのだ。
「尋さんって、教員免許持ってますもんねー。学校勤めしてたら人気教師になってたかも」
「面倒見もいいしな」
四谷と一颯の言葉を聞いて、美青も納得する。学生の頃にあんな先生に教わっていれば、もう少し勉強も好きになれたかもしれない、などと思う。
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