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「しらばっくれるのはよせ。お前のあんな顔見てたら誰だってわかるさ」
何様だこいつ、俺と蒼井に何があったか知らないくせに。カッとして声を上げようとしたら、有賀がさらに追い討ちをかけた。
「好きなんだろ、蒼井のこと」
「…は」
「いや、好き『だった』か? 自分では必死にそう思おうとしている。だがお前はまだ未練タラタラだ。自分でもわかっているだろ?」
こいつは人の心を読む能力でもあるのか。
俺よりも俺の気持ちをわかっているかのような口ぶりに、心が冷えていくのがわかった。
「今日だってどうせ蒼井に誘われたんだろうが、そんな顔するくらいなら来なきゃよかったんだ。内心こうなるかもしれないと分かってても来たんだろ?」
「……」
「苦しいよな、苦しいだろ。やめたくてもやめられないんだよな」
「…黙れ」
「お前の気持ちは痛いほどわかるよ。もう、疲れただろ。俺も疲れたよ。……だから、やめちまえよ。はやく吹っ切れろ」
「…黙れって言っているだろ⁉︎」
シン、とその場が静まり返った。「やってしまった」と思った時にはもう遅い。周りからの視線を痛いほど感じる。
感情的になってしまったのが恥ずかしくて、居た堪れなくて、俺は顔を真っ赤にして俯くしかなかった。
「自分自身が惨めだなんてこと、俺が一番よく分かっている…」
目頭が熱くなる。
だが有賀は相変わらず癪に触ることを言う。
「わかるよ」
「なにがっ…!」
すると有賀は目をスッと細めた。
「俺も今お前と全く同じ気持ちだから。しかもお前はここ数ヶ月の話だろうけど、俺は10年以上ずっとだ。お前こそ俺の気持ちがわかるのか?」
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