決別

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野生的なその笑みは、大半の人からすれば魅力的だろう。だが今の俺にはほとんど響かなかった。 俺が求めるのはこの雄臭さじゃなくて、もっと…優しくて儚くて可愛らしい…、まさに、蒼井みたいな。 どう見ても目の前にいる男は蒼井に似ても似つかなかった。その事実を痛感して俺は無言で俯く。 そんな俺の様子に苛立ったように、有賀は舌打ちをした。 「お前、その気持ちいつまで引きずるつもりだよ。いい加減にしろ、過去じゃなくて今目の前にいる俺を見ろ」 「見てます。…しっかり、見えてる…」 「いいや、全く見えてない。いい加減現実と向き合え。蒼井は氷室と付き合っているんだ」 別にいい。 蒼井が氷室と付き合ってたって。俺が蒼井を好きだという気持ちは、変わることがないのだから。美しい思い出に、誰も手を加えることができないのだから。 過去の恋人ごっこは楽しかった。 部活終わりの蒼井と一緒に帰ることができた。 恋人つなぎをすることもできた。 抱きしめることもできた。 ふと思い出してクスリと笑うと、有賀は急に立ち上がった。 「もういい、こうなったら最終手段だ」 そう言うと有賀はさっさと会計を済まし、俺の腕を掴んで無理やり外へ連れ出した。 「ちょっ、どこへ行くんですか!」 尋ねても返してもらえない。 連れてこられた先は、ミスターコンのステージだった。 「やめてください、見たくなんかないです、ミスターコンなんて!」 「蒼井と氷室が大観衆のステージに2人きりで立つのを見るのが嫌なんだろ? だがな、これが現実なんだ」 目を逸らそうとしたが、有賀に顎を掴まれ無理矢理ステージの方を向かされた。 すると袖から見たくなかった2人が出てきた。
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