当て馬

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大広間の襖を開けると、既に俺以外の候補者二名が座っていた。一人は男にも関わらず小柄で目がクリクリと可愛らしい、遊佐千尋。もう一人は俺より背が高く男前の有賀亮。 二人は黙って俺を見つめた。 「遅くなって申し訳ございません。お足元が悪い中本日は本家にお越しくださりありがとうございます」 「そーゆーの、いいから。何を言うか知らないけど、さっさと来いって現当主に言ってよ」 俺が気を遣って挨拶しても、千尋は嫌味で返す。前は腹が立ったが今はずいぶん慣れたものだ。俺は気にせずに無言で微笑んで座布団に腰を下ろした。 一方でもう一人の候補者の有賀亮は何も言わなかった。ただ、俺をジッと見つめている。そのまとわりつくような視線に嫌気がさし、俺は口を開いてしまった。 「何か」 「…別に」 「学さぁ、亮にまで文句つける気? 感じ悪いよ、いい加減にしなよ」 また千尋がキャンキャンと噛み付いてくる。文句なんて、一回も言ってない。 だが仕方ないのだ。千尋は小さい時から有賀が好きなのだ。昔から二人をよく知る俺は、そのことを十分知っていた。 ちなみに俺と千尋が同い年で、有賀は1歳下である。有賀は俺達よりも年下なのに、おそらく一番優秀だ。本家の俺はきっとこの三人の中で一番厳しく育てられてきた。それなのにこのままでは有賀が当主の座に着くのが順当だろう。 遊佐家なんて大嫌いだ。当主なんてやりたくない。 だが有賀に負けるのは癪に触った。 当主にならなければ、俺の今までの人生全てが否定される気がしたのだ。 憂鬱な気分になって下を向くと、大広間の襖が開かれた。現当主のご入場である。
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