当て馬

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「本日は集まってもらってご苦労だった。というのも次期当主候補のお前たちに重要な話がある」 そう言って現当主、すなわち俺の実父がどっかりと腰を下ろす。一瞬で大広間にピリッとした緊張感が走り、俺達は背筋を伸ばして当主を見つめた。 「間も無く次期当主が決まる。その決め方だが、これからお前たちに遊佐グループの小さな企業の経営を一つずつ任せたい」 「…と、言いますと」 千尋が恐る恐る尋ねる。いつもはキャンキャン煩くても、格上の人物に対しては随分殊勝なものだ。 その隣の有賀は相変わらず無表情だ。何を考えているのか全くわからない。 「三人の中で、期間内に最も利益を出した者を後継者とする。以上。何か質問は」 予想もしてなかった決め方に、三人揃って押し黙る。突拍子もなさ過ぎて、言葉も出なかった。 だが当主はそれを質問がないのだと受け取ったようだった。 「では本日の内容は以上だ。解散してもらって構わない」 そう言って大広間を出て行く当主。呆気にとられた候補者三人のみが残された。 気まずくて俺は無理やり口を開く。 「…いや、驚きましたね。こんな決め方をするとは。ライバルとはいえ、お互い頑張りましょうね」 「学は相変わらず優等生だよね。俺たちに敬語なんて使ってさ、感じ悪い。猫被り」 お前たちなんかと馴れ合いたくないんだよ。それにこんな本性を出した方が面倒くさいことになるに違いない。 返事をするのも鬱陶しく、俺は黙って微笑んだまま一礼し、大広間を去った。
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