泣かないでと励ますキミを私は

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 抵抗しなければ二人とも殺されると思った。酒癖が悪く、思い込みが激しい夫はわたしがパートの掛け持ちで遅くなったのに激怒した。 「俺が、なんでお前を待たないといけないんだ!!!」  当時三歳の圭は部屋の隅で怯え、怖さからか失禁していた。アルコールの臭いとアンモニアの臭いが交じる不快な空気。息が小刻みになっていく。 「い、いま・・作りますから」  震える声で答え、俯きながら寝室へ向かい、数枚のタオルと圭の下着関係を胸に抱え走り込む。 「ごめん、なさい・・」  宥めようとした瞬間、前方に突き出された足に引っかかってしまい、床に倒れ込んでしまうわたし。  圭が汚した場所に思いっきり顔をぶつけた。顔面が痛く、顔中に張り付いた臭いが消えない、髪の毛もぼさぼさでもう何十年も美容院すら行っていない。 「ふ、早く作れよ!!」  夫は鼻で嗤いわたしを見下して、テーブルにコンコンと大きな音を立て始める。大きな子供がいるみたい・・・・ コンコン コンコン コンコン  合唱するように、激しく雷雨が鳴り響く。震えだす圭、外はすっかり暗く、流されたままのテレビにテロップで竜巻注意報が流れる。 「もう、限界!!」  わたしは立ち上がり、振り向いた元夫は背もたれに上半身を傾げながら、反対側に置かれてあるテレビに夢中だ。今なら・・・・ 〇  震える拳、そのまま椅子を押し倒せばいいだけ。悪魔の声が囁く、すんでで止めたのは圭だった。 「ママ!!」  我に返ったわたしは、圭を風呂場に連れ込んで身体を綺麗にし着替えさせる。またコツンコツンの音が響く、元夫が三本目のビールを冷蔵庫から取り出す音と鈍い音が重なる。  ゴロゴロと雷が響き幼い圭がわたしを強く抱きしめていた。抱きしめらながら、わたしは泣いていた。 「逃げようか?圭」  啜りながら、脱衣所から廊下を走る。元夫はいびきを掻きながら寝息を立てている。缶ビールを注ぐグラスに、たくさん睡眠剤の粉を入れておいた。冷たいビールじゃないと文句を言う人だから、ビールを注いだ冷たい睡眠剤入りのビールを美味しそうに飲む夫。 死ぬほど入れていない、ちゃんと目が覚めるほどの量しか潰していない。なのに、亡くなってしまうなんて―――
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