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背信
あれから1か月が過ぎた。
マップは数件の施設で置いてくれた。奥宮のお爺さんが声をかけた施設だけだ。それ以外のお店には「飛島さんの許可なしには置けない。」と断られた。
奥宮蓮についてまだお爺さんに聞けずにいた。息子さん夫婦の事故のこともある。家族の問題はデリケートだ。もう少し情報を集めてから慎重にたずねることにした。
この1か月、オカルト研究部の活動は少なめだった。稗田は祖父のもとに通い語部としての知識を少しずつ引き継いでいる。
他のオカルト研究部員は勉強に追われる以外、平穏な日々だった。
望実は、美少年好き仲間とSNSで情報交換をしたり妄想イラストを載せたり深夜まで遊んでいた。
部活のT先輩についてたまに書き込んでいたが
、白鳥座の形をした遺跡について書いたのはその日が初めてだった。部活で口止めされたわけでもなく気軽な気持ちで書いた。
翌朝制服に着替え、スマホを開こうと起動ボタンを押したが何の反応もない。画面が真っ暗なままだ。充電は睡眠中にしたはずだ。
「えーなになに? 昨日使いすぎた? うわぁーやられた。はぁ〜スマホないとかサイアク!!」
独り言を言うと学校へと急いだ。
翌日午後になると、坂下町ではスマホの虫喰い現象が噂になった。
望実のスマホはすでに直り虫喰い現象は起きていなかった。しかしタイミング的に自分のせいかもしれないと不安になってきた。
(白鳥座のことSNSに書いちゃダメだった?神様怒ったのかなぁ?)
その日、望実は部活に遅れて顔を出すと、オカルト研究部は予想外に活気づいていた。
スマホの文字が消えていく虫喰い現象について続々とSNSに情報が上がり、オカルト研究部のメンバーは現象の起きた地域や時間帯などを手分けして調べていた。
「虫喰い現象が起きているのは坂下町付近の人みたいですね。このあたりの高校生や会社員ばかりのようです。」鈴木は仕事が早い。
「これ見て!隠里(御泊)の民宿からも虫喰いの報告あるよ。昨日の書き込みだ。」見つけたのは飛島だ。
「今のところ隠里※の書き込みが1番早いようですね。”契約”に関係しているかもしれません。もう少し虫喰い現象を追ってみましょう。」
今までの情報と照らし合わせ、虫喰い現象と”契約”に接点がないか、稗田は考えを巡らせていた。
望実はますます怖くなってきた。昨日のことは、SNSサイトに飛島先輩のことも書いているので言えなかった。小さな秘密を抱えてしまっていた。
もう1人、後ろめたい気持ちを抱えながら、部室から離れた場所で誰かと連絡をとっている部員がいた。文字を打っている横顔は苦悩している。部活中の彼はいつも通り真面目で、誰も彼の苦悩に気づけなかった。
ーー皆んなの知らないところで飛島家の影が静かに忍びよっていた。
※ 御泊 = 隠里
通称は隠里。観光客はこちらで呼ぶ。
歴史に詳しい人、集落出身者は御泊と呼ぶ。
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