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次の扉
心の定まった人の言葉には重みがある。奥宮のお爺さんにも稗田のそれが感じられた。
言葉を待ち構えるため居住まいを正し、2人はしっかりと向かいあった。
「奥宮蓮くんのことです。
子どもの頃、ぼくは御泊で蓮くんに会っています。あの時も今と変わらない姿・年齢でした。
以前このマンションの屋上で烏を操っているところも見かけました。彼は普通の少年には見えません。
蓮くんは奥宮さんの本当のお孫さんなんでしょうか?……白猫の伝説の、蓮行の双子の1人ではないでしょうか?」
「綴くん。黙っていですまながったね。これは、話してはいげない掟なんだよ。“契約”に関わる人間は、自ら気づかなげれば次の扉が開がないごどになってる。発見そのものが鍵なんだよ。
蓮は確かにオレの孫ではない。そしで双子の1人に間違いない。だが仲間にでぎるど思わんほうがいい。神様の世界で生ぎでだ人に人間の理屈は通用しないがらね。」
「話してくれて、ありがとうございます。
祖父が“契約”について『あちらから現れる』と言った意味がようやくわかりました。
起こったことに対して何に気づくかどう行動するのか、それこそが“契約”に向かう道だったんです。
祖父は、ぼくが仲間を増やし、稗田家が代々引き継いできた秘密を話すことにも反対しませんでした。
未来は何が起こるかわからない。自分で考えて決めろ、そう言いたかったんだと思います。」
ーー稗田が帰る後ろ姿を、屋上から2人が見送っていた。奥宮のお爺さんと奥宮蓮だ。
「ボーイズ ビー アンビシャス。君だちの未来は、君だちのもんだ。」
「ふん。俺も好きにしていいか?」
「それも仕方あるまい。世界が守られるのも滅ぶのも、みんな次の世代が決めるごどさね。……この先古狸どもの邪魔が入らなげればな。」
暖かい風が頬をなでていった。
坂下町に、もう夏が来ていた。
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