双愛

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 大塚未藍(みあ)をつけ回していたストーカー男が捕まった。夏休みの間にいろいろなことが起き、事態がおさまって……未藍と友人の侑香(ゆうか)はオカルト研究部に加入することとなった。(経緯は「虫喰いの手紙」を読んでみてくださいね。)  この2人の加入は意外なところに影響を与えた。飛島爽玄(そうげん)らを頂点とするスクールカーストとは、別の勢力ができつつあるの周りが感じとっていた。  9月、新学期から奥宮蓮(おくみやれん)はほとんど毎日登校している。あいかわらず誰とも仲良くするつもりはない。  鈴木への静かな嫌がらせは続いているものの、奥宮蓮という異質な人間の登場でクラスの雰囲気も変わってきていた。 ****  その日、日直の未藍は当番日誌を届けるため教員室へと向かっていた。  窓から吹きこむ秋風が心地よい。寄り道をして、中庭に面した小さな屋上に出て青空を見ていた。  心地よさに気を取られ、屋上に先客がいたことに気がつかなかった。  ひと1人気づかない広さでもないはずだが、奥宮蓮が気配もなく座っていた。 「あっ、ごめん気づかなくて。隠里(かくれざと)で一度会ったよね?」  奥宮蓮は応えない。  応えないまま蓮のほうから未藍に質問をした。二重になったような奇妙な声がその場の空気を変える。 「おまえ、蛇だろう?」 「蛇??? 何のこと?」  ぶしつけな表現に未藍は眉を寄せた。 「稗田は、まだ話していないのか。」  そう言うと、未藍の腕を掴んで引き寄せ、腰に手をまわし制服のスカートを腰骨までズリ下げた。あまりの素早さに抵抗も忘れ、未藍は呆然としている。  蓮は未藍の右腰に蛇紋(じゃもん)があるの確かめ、ニヤリと笑った。 「ひゃっっ!」  未藍は慌てて腰まで下がったスカートを直し、蓮をこわごわ睨む。小さい頃から気になっていたアザだった。ここ最近急に濃くなったようで、気にしていたのだ。 「な…んで、知ってるの?」 「何ででしょう。」 「俺がおまえに会ったのは、あれが初めてじゃない。何年か前にも会っている。あの時より大人になって俺は嬉しい。」蓮は未藍の手をとり、教室では見せないような目をしている。  未藍も初めて会った気がしなかった。隠里の沢で目が合った一瞬は、永く時が止まったようだった。  そしていま、手を握られているのも嫌ではなかった。急にひどいことをされたにも関わらず。 ーー中庭を挟んだ2号棟で、瓜田は屋上の出来事を目撃してしまっていた。  奥宮蓮が未藍の腕をつかんだのを見て、助けようとすぐさま走った。渡り廊下を全速力で回していた足は、途中で回るのをやめた。  さすがの瓜田にも、わかってしまった。 (これは助ける場面じゃない)  くるりと後ろを向いて、何事もなかったかのように戻る。瓜田の全速力に驚いていた生徒たちが不思議そうに見ている。  廊下が水の中にいるみたいに、ゆらゆらと歪んで見えた。  瓜田は、昔読んだ人魚姫の話を思い出していた。 (頑張って護衛しても、ストーカー男から助けたのがぼくでも、ダメなもんはダメなんだな。)  ポケットから出したハンカチで、ぐるりと顔の汗をぬぐった。
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