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再会
ーー皆んな口をきかない。
これは遠回しな脅しだ。
世の中をまだ知らない高校生にも理解できた。作ったマップを仮に置いてもらえたとしても、そのお店や施設に迷惑がかかるかもしれない。
飛島家はそうやって町を意のままに操ってきた。高校生にその権力を振り払える力はない。
遺跡の周辺には警察と消防の人が来ていた。野次馬もいる。この様子では西の遺跡は見れそうもない。
「こんにちは。」
明るく力強い声が聞こえた。桜庭警部※だ。
「久しぶりだね。元気だったかい?」
桜庭警部の声は人を安心させる。重苦しかった空気が途切れ、息もしやすくなった。
「はい元気にしています。部員も2名増えました。白猫の件ではお世話になりました。
……ここで何かあったのでしょうか?」
稗田がたずねた。
「また遺跡を傷をつけられたんだよ。今回は周りに火をつけてある。あやうく山火事になるところだったよ。現場は他の警察官に任せているんだが、飛島さんの案件は特別でね(軽く目配せし)君たちもこの辺りで誰か変わった人は見なかったかい?」
「とくに気になる人は……。」皆んな見ていないと首を横に振った。
桜庭警部はうなずき、その後困ったような表情をした。
「白猫の一件以来、私は影で『オカルト警部』って呼ばれているらしいんだよ。転勤続きで沈んでいた妻に話したら『カタブツなあなたがオカルト警部?』って笑ってね。ニックネームのおかげで勤務先にも早く馴染めたよ。」
桜庭警部は屈強な大男で顔は常に真面目だ。一見すると近寄りがたいのだろう。
爽達の態度に冷えた気持ちがほぐれてきた。同じ大人でも周りの気分を良くさせる人、悪くさせる人がいる。
桜庭警部にオカルト研究部の作ったマップを手渡し、今日は解散することにした。
マップを置いてくれる場所がないとしても出会った人に手渡しをすればいいのだ。稗田は少し前向きな気持ちになっていた。
ーー離れたところで、爽達は桜庭警部と稗田とのやり取りを静かに見ていた。その表情は何も考えていないように見える。
木にとまった烏が笑ったようにクァクァと鳴き首をかしげた。
山で烏を見て、おかしいと思う人はいないだろう。迎えの車が来て、爽達は飛島神社に戻っていった。
その後すぐ、烏は追いかけるように飛島神社のほうへ飛び去り、もう一羽もオカルト研究部鈴木の帰った方角へと飛び去った。
※桜庭警部
「悲恋の枯れ井戸」「虫喰いの手紙」にも登場する頼もしい存在。オカルトでは解決できない犯罪がらみの案件は桜庭警部に頼っている。
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