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「えーっと、杉田さん、は雨で来れないと連絡がありました。田中さん、えー谷重さん。」
五十音順にとられている点呼の様子からすると、まだ辻川聖哉の名は呼ばれてないようだ。教授も手元の学生名簿に目を落としているせいか、こちらを気にする様子は全くない。
ホッと安心してため息をつくと、どこか手頃な席はないか、キョロキョロと教室の中を見渡した。そこそこ広い教室なので座れないことはないが、教壇から遠い、人気の席位置はほとんど取られてしまっている。この宗教学Bという講義は出席さえしていれば単位が貰えるいわゆる「楽単」と呼ばれている科目の一つで、履修生もそれなりに多い。
教室中をあちこち確認していると、ふと樺沢由衣子がこちらに手招きしているのに気づいた。丁寧にカールされ、胸元まで垂れ下がった髪には水滴一つついていない。雨が降り出す前に教室に入っていたのだろうか。余裕のある微笑みを聖弥に向けている。隣には寺島大介が聖哉と同じく雨に振られたのだろう。水滴と汗の混じった額を彼には小さすぎる杉アヤのハンカチでいそいそと拭いている。見ると、由衣子の後ろの席が一つだけ空いている。聖哉は目と微笑みで彼らに合図すると、その席へと向かった。
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