『冷やしガバゴボラ、始めました』

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 畳部屋から一度靴を脱いで上がり、その靴を持ったまま移動する。  奥にある店の裏口を通ると、外からは見えない、小さな庭のような空間があった。  昔は何度も車が出入りしたのか、地面のコンクリート舗装はひび割れて、砕けて石になっている箇所もあった。  安物の砂利を引いたようになっている。  隙間からは、暑さに負けず雑草がいくつも顔を出していた。  かつて沢山の商店街の人間が使っていたであろうそこは、今は滝堂の運転する小さな軽自動車や水道しかない。  外の水道の下の、タライの中には水が張っていた。  水の中に、赤銅色の、トゲだらけの、爬虫類のようなものが座っている。  タライの側には魚釣り用の氷の袋がいくつも落ちていたが、氷そのものはどこにも見当たらなかった。  タライの中に、両手で持ち上げられる位の、小さなガバゴボラが居た。
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