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1、突然の来訪者
アイリスは戸惑った。
今日は新皇帝の即位式の前の晩に当たるのだ。
なのに、何故、家で身支度をしていて必要な物をそろえていたアイリスの前に愛馬でさっそうと駆け付けたイリス王子にアイリスは戸惑った。
「な、なんで、です? 王子様、イリス殿下」
その言葉に家の者達も戸惑いを隠せぬ様子で対峙しているアイリスとイリスを見守っている。
煌々と赤く燃え滾る暖炉からはぱちぱちっと火の粉が舞い踊り部屋を暖め続けている。
アイリスが戸惑いイリスに聞いた。
「今、何と言われましたか? イリス殿下」
その声は震えていて悲しみに包まれている。
「だから、明日は城には来なくていいと言った、迎えに来るまで、ココに居ろ」
それはとてもぶっきら棒で不満げな口調だった。
「何でですか? 私が女だからですか? だから、殿下の従者である私を即位式には参加させないと?」
本来、従者の最初のお役目は新王となった王子の補佐として、王子の一歩後ろを王冠を持って歩く事で新王の従者に就いた事を世に知らしめる一番初めのイベントだ。
なのに
「式に参列するな、王冠を持たせる役はお前にはさせない」
っと、家で待機を命じられたのである。
戸惑い泣き出すアイリスにイリスが
「ツインヴァール家には今まで通りの責務をこなしてもらうが、お前は別だよ、アイリス、俺はお前を城には呼ばぬ」
そう言い捨ててアイリスに苦笑すると
「まぁ、どうしてもと言うのなら、床に呼ぶ相手としてなら、考えてやらなくもないな?」
そう言われてアイリスは目を見開いた。
それは何たる侮辱の言葉か?
アイリスを従者としてではなく、床に呼ぶ相手、つまりは、慰めさせる相手としてだけ呼ぶと言うのだ。
アイリスは気づいたら手を上げていた。
大きな音がして、アイリスがすぐさま、屋敷の使用人達に取り押さえられればイリスはため息をついた。
「だから、お前は青いんだよ、主に手を上げる奴に世話など任せられるか?」
そう怒鳴られてアイリスは悔し涙を流す。
当然、イリス殿下とは幼馴染だったのだ。
当然だが、幼い時は、良く遊んでもらい泣くような事があれば虐めた相手がたとえ大人だろうが、黙らせてきた。
この話を両親から聞いた時は、そんな殿下に恩返しができると喜んでいたと言うのに……大人になり成人の儀を迎えたあたりから、イリスはアイリスの元に遊びには来なくなった。
「殿下、あんまりです」
そう呟けばイリスがアイリスを見つめると
「お前はクビだよ、アイリス、どうしても、代わりの仕事が欲しいのなら、いつでもくれてやるぞ、夜の祝い姫としてな」
そう言われてアイリスはその場で気を失った。
イリスはそれを見届けると歩き出す。
慌てて家の住人が出迎えに出れば
「すまなかったな? こうでも言わないと、あいつは、無理にでも俺の所に来るだろう?」
そう言わてアイリスの父親が頭を下げる。
「では、後日、アイリスの事は、迎えに来るからな、心のフォローを頼む」
そう言われて更に頭を下げたまま当主であり父親が
「賜りました、道中お気を付けて」
そう言われてイリスは頷くとそのまま馬にまたがると走り去って行った。
父親はため息をつく。
実はこの話、もっと前に、イリスから聞かされていたのだ。
しかし、アイリスの悲しみを思い起こし溜息を父親はつく。
「殿下、貴方がどうしてもっとお考えの様に、我が娘も、貴方に仕える事に生きがいを感じていたのです、それを取り上げてしまわれるなど……婚姻の件、なんと話せばいいのやら」
そう言いながら頭を悩ませつつ父親は中に入って行った。
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