第二章 光迅を祭る

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 五本の指は節くれだち、牛の角か狼の牙のような爪が生えている。  天と地を貫くように、爪が次々に地面に突き刺さる。爪先が、すぐ傍らをすさまじい勢いで通り過ぎる。  カナタは思わず首をすくめようとしたが、凍りついた時間に縛られているためか、まったく動くことができない。  鉄塔の周囲を囲んだかと思うと、すぐに爪は地面を離れ、鉄塔とともに、周りの土や建物を摘まみ上げた。  一本の爪の先端に、小さな何かが引掛けられているのが見える。  まばゆい光に満たされた中で、かすかにケモノの輪郭がカナタの目に映じる。  ……イツカだ。  なぜ、たった今、そこにいたはずなのに……。  カナタは混乱した。  イツカもこちらに気がつく。  ゆっくり宙を回転するうち、目と目が合う。  ふたつの瞳が光を反射して輝く。  この上なく美しく、こっけいで、哀しくもみじめだ。  そのとき、止まっていたすべてが動き出した。  耳をつんざく轟音が響き渡る。  カナタの体が地面に投げ出され 蹴り飛ばした小石と砂粒が目の前を舞う。  と……。  視界を占めていた光は、次の瞬間、あとかたもなく消え去った。  それでも、残像のせいで、まだ周囲の景色は全く見えない。  カナタは、目をしばたいた。
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