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第一章 英雄を騙る
裏側から月の光に照らされて、白い輝きに縁どられた雲が、蒼い闇をゆっくり横切っていく。
一晩ごとに空気が澄んでいくこの季節の夜空を背に、まるで世界中におおいかぶさるような巨大な樹の影が、くっきりと浮かぶ。
よく見ると樹ではない。
そそり立つのは、巨大な電柱だ。
六叉路の片隅で、六つの路から渡された無数の電線を一気にたばね、再び六つの方向へと送り出している。
ここに電柱が建てられてから、長い時が過ぎた。
その間に電線の数は増え、ファイバーケーブルや支線のワイヤーも加わり、都度、それらの架線をつなぎ支える金属枠や部品が継ぎ足されていった。
今では、それらの部材が枝のように広がり、異界の大樹のような威容を見せている。
吹きすさぶ風に、張り渡された架線の群れが震え、びゅうびゅうと鳴き叫ぶ。
ハクビシンのカナタは、ゆっくりと首をもたげ、背の高い草がうっそうと生い茂る中から、電柱を見上げた。
満月にやや欠ける黄色い月に照らされ、鼻先から狭い額までをおおう真白な一筋の毛が浮かぶ。
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