第一章 英雄を騙る

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 ある日突然、長老がカナタに啓示を与えた。  長老といっても、この街に来て初めて出会ったハクビシンだ。雷獣の血筋に連なるものであることは確かだが、縁もゆかりもない。  街はずれの木造モルタル二階建てのアパートの空き部屋で、何年もずっと瞑想を続けている、というよりも、いつもうとうと居眠りしている長老のところに、なぜかカナタは足しげく出入りしていた。 ―この街で功徳を積め―  功徳というのが何のことかわからず、カナタはきき返した。長老はめずらしく素直に応えた。 ―他のケモノを救うのだ―  なんのために?間髪おかずにカナタはたずねたが、もう長老から言葉は返ってこなかった。  また眠ってしまったのか、と顔を近づけ、おそるおそる様子をうかがう。  とたんに、長老は首をもたげてつぶやいた。 ―ひまをもてあましてるだろう?―  すっかり見透かされたカナタは、驚いているのを隠しながら、ゆっくり首を後ろへとのけぞらせると、前肢で耳の後ろをぼりぼりとかいた。
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