第一章 英雄を騙る

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―いや、そんなことはないけれどー  ここ数日の夜の散歩を思い出して、口にする。 ―毎晩、ニンゲンが集積場に積み上げたゴミ袋が崩れて、食い物が散っていないか見に行くとか……―  おぼろげにおぼえている景色を、無理やりひねり出した。  カナタは……いや、ハクビシンは物事をおぼえておくことが苦手だ。三晩、四晩よりも昔のことを思い出すことがなかなかできない。 ―それはいいな、ワシも連れて行ってくれ、ゴミ袋から美味いものがこぼれ落ちていたら御の字だ―  長老ともなるとさらに念がいっている。たった今、口にしたばかりの自分の啓示を忘れ、うらやましげにつぶやいた。  かと思うと、今度はこっくりこっくりとうたたねを始めた。  ひまつぶしのためではない。  夜を迎えるたびにわきあがってくる、得体の知れないじりじりとした気持ちをまぎらわすには、こうするしかない。  こうして、毎晩ひたすら街を徘徊して務めを続けたその果てに、いったい、どこにたどりつくことができるというのだろうか。  カナタには、まったく見当がつかない。
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