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―いや、そんなことはないけれどー
ここ数日の夜の散歩を思い出して、口にする。
―毎晩、ニンゲンが集積場に積み上げたゴミ袋が崩れて、食い物が散っていないか見に行くとか……―
おぼろげにおぼえている景色を、無理やりひねり出した。
カナタは……いや、ハクビシンは物事をおぼえておくことが苦手だ。三晩、四晩よりも昔のことを思い出すことがなかなかできない。
―それはいいな、ワシも連れて行ってくれ、ゴミ袋から美味いものがこぼれ落ちていたら御の字だ―
長老ともなるとさらに念がいっている。たった今、口にしたばかりの自分の啓示を忘れ、うらやましげにつぶやいた。
かと思うと、今度はこっくりこっくりとうたたねを始めた。
ひまつぶしのためではない。
夜を迎えるたびにわきあがってくる、得体の知れないじりじりとした気持ちをまぎらわすには、こうするしかない。
こうして、毎晩ひたすら街を徘徊して務めを続けたその果てに、いったい、どこにたどりつくことができるというのだろうか。
カナタには、まったく見当がつかない。
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