第一章 英雄を騙る

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 厖大な量の雷気が、この街じゅうに張りめぐらされた電線とファイバーケーブルを伝って、さまざまな架線をたばねるこの電柱に凝集していく。  そして、カナタの鼻、耳、目、肌や舌の代わりとなって、周りで起きた事物の波動を運んで来る。  その上、カナタは、街の隅々に至る手段としても電線とケーブルを使う。  電柱と架線の群れは、カナタたち雷獣がこの街で糧を探し、徘徊し、求める何かを探し出すためのいしずえであり、よすがだ。  電線とカナタの鼻先の白い毛のわずかな間に、ばちばちと閃光が散った。  何かが鳴き叫ぶ甲高い声、暗い闇の奥で鈍く輝く爪、目の前を通り過ぎる黒い翼……。  つかの間、カナタの意識がうばわれる。  恐怖、痛み、苦しみ……生々しい感覚が全身を襲う。  意識はすぐもとに戻った。それでも、影像の名残りは、ばちばちと両目の間にとどまっていた。  雷気が発信された方向をたしかめると、電柱の天辺から、低いところに渡された電線へと跳び移る。  強めに張られたケーブルを注意深く見定めて、四肢の指でぎゅっとにぎり、道路の上の中空を駆け出した。
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