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夜風がびゅんびゅんと心地よく体毛をなぶる。
ときどき、電線が振り子のように左へ右へと大きく揺れて、ひどい目まいに襲われる。
まるで宙を飛びまわっているようだ。
はるか下に見える道路のセンターラインの白い長方形が、次々に後ろへと流れていく。
並んで走る老いたニンゲンのつがいとすれ違う。額からぼたぼたと滴る汗を首に巻いた布で拭き取りながら、苦し気にはあはあと息をしている。
どうして苦しみながら走り続けるのだろう。
カナタは不思議でならない。
行く手に見える曲がり角に、今にも崩れそうな二階建ての家が見えてきた。
錆びてはがれたトタンの壁をくり抜いた二階の窓には、鈍い銀色のアルミ枠がはめ込まれ、放置されたプラスチックの植木鉢から、暴れまわるように伸びたツルが巻き付き、ぼうぼうと葉を茂らせている。
葉陰のそこかしこから、濃い赤色に熟した小さなトマトの実がのぞく。
そういえば、腹が空いた。
カナタは、今夜まだ何も口にしていないことに、やっと気がついた。
ケーブルから窓へと跳んで、アルミ枠にしがみつく。
前肢でツルと葉をかきわけ、熟した実を選んで、がぶりとしゃぶりついた。
口の中に酸味が広がり、きりりとひきしまる。
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