5人が本棚に入れています
本棚に追加
礼拝堂の悪魔(6)
その日の放課後の見回り当番には、七春が当たっていた。校舎内の各教室の戸締りや、まだ残っている生徒がいないか、といったことを確認し、学内で最後に学校を出ていくのが当番の役目だった。
校門が閉まる時刻までにはまだ時間があったが、北倉と居縫とは既に退校していた。辰美だけが、不慣れな七春の補佐役として残っている。
来客用のソファで週刊誌を読みふける辰美を尻目に、事務室で黙々と仕事をしていた七春はふと、昼間のあの紳士がまだ姿を見せていないことに気がついた。
学外からの入構者は、帰るときに必ず事務室へ許可証を返却することになっている。入構してから既に二時間以上経っていたが、来校者リストにも退出時刻の記載はなかった。天道、というのが彼の名前らしい。
「辰美さん。そう言えば昼間のあの男の人、まだ戻ってませんよね」
辰美は週刊誌から七春の方へと視線を移した。そしてすぐさま壁掛け時計を見やりながら言った。
「ああ、天道さん? そういえば、全然戻って来ないねえ。もしかして構内で道に迷ってるのかな」
「俺、ちょっと探してきます」
外はまだ明るかったが、念のため、七春は様子を見に行くことにした。
小礼拝堂の前まで来た七春は、天道という男の姿を探した。途中で彼に出合わなかったので、まだ礼拝堂の周辺にいるかもしれないと考えたのだ。しかし、礼拝堂の周囲に人の気配はなく、あの男性の姿もなかった。
やはり、構内で迷っているのだろうか、そう思いかけた七春の目の端に、キラリと光るものがちらついた。目をやると、礼拝堂へ続く階段の途中に、夕日を受けて光を放つものがあった。
周囲に人がいないのを確認してから、立ち入り禁止のロープを越え、石段を上った。光っていたのは、ネクタイピンだった。見覚えがあった。間違いなく、天道が身に着けていたものだ。
なんとなく胸騒ぎを覚えて、礼拝堂を見上げた。よく見ると、入り口の扉がわずかに開いている。
まさか、この礼拝堂へ入ったのだろうか。だとしたら間違いなくあの少女と出合うはずだ。ひょっとして、二人ともまだ中にいるのだろうか。
少し考え難かったが、いずれにせよ今の七春の役目は、行方不明の天道という男を見つけることと、学内に残っている人間全てを追い出すことだ。気は進まなかったが、この礼拝堂の中を確認する必要もあるだろう。そう思い、そっと礼拝堂の中へと入っていった。
最初のコメントを投稿しよう!