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その言葉通り、鹿野は数日のうちに連絡を入れてくれた。彼が調べたところによると、菊池芽衣はこの春づけで大学を自主退学し、アパートも引き払っていた。友人たちもその後のことを知らないらしい。実家の建物や土地はすでに人手に渡っていて、親兄弟ともども消息がつかめない、とのことだった。
七春の方でも、近くの興信所にあたってみた。しかしそこで提示された人探しに対する報酬額は、今の彼には到底手の届かないものだった。
ほとんど八方塞がりの状態のまま、ただいたずらに毎日が過ぎて行った。それでもなんとかして芽衣の消息を掴めないかと、七春は頭を悩ませた。そんな折、事務室へ来客があった。立ち入り禁止の礼拝堂を見学したいという、いかにも裕福そうな老紳士だった。恐らくはあの風花という少女の客だろう。
彼の入構許可手続きをしていた七春は、ふと、あることを思い出した。数日前拾った天道という男性のネクタイピンが、まだ自分の席の抽斗に入ったままになっていたのだ。
今日帰るときあの風花という少女に渡そう。顧客なのだから、住所くらいは知っているだろう。そんなことを考えながら、七春は来校者リストに自分の判子を押した。
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