5人が本棚に入れています
本棚に追加
礼拝堂の悪魔(了)
石段を下りきったところで、見知らぬ女性に声を掛けられた。白髪の、顔つきも物言いもきびきびとした、上品な女性だった。顔に見覚えがあったが、どこで見たのかとっさに思い出せなかった。
「失礼。貴方、馬渕七春さん?」
「はい。……どちら様ですか?」
「あら……ごめんなさい。あたくし、西王寺楓と申します」
そう言いながら、その女性は名刺を差し出した。名刺の肩書部分には、上品な文字で「風露学園理事長」と書きこまれていた。その女性の顔をまじまじと見つめた後、七春は慌てて言った。
「これは、大変失礼致しました」
「構いませんわ。こちらこそ孫がお世話になっているのに、御挨拶が遅れてごめんなさい。ここ数日、あちこち飛び回っていたものだから」
「お世話?」
思いがけない言葉に面食らって見つめ返す七春には構わず、女性は言った。
「折り入ってご相談したいことがありますの。ちょっと、お時間頂けないかしら」
自分が所属する組織のトップにそう言われて断る度胸など持ち合わせていなかった。そしてここからが、受難の日々の幕開けであった。
最初のコメントを投稿しよう!