笑う彼女と、続く未来と

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「今回は携帯性を重視して手帳サイズにしました!」 「いや機能性はどうでもいいけど……終わりじゃなかったのかよ」 「華の高校生をなめないで。今までのは『片想い編』。ここからは『ラブラブカップル編』に突入するの。まだまだ辛く険しい道のりが続くわけさ」  そう言って星井はもう一度笑った。  彼女の理想像は随分と高いところにあるようだ。  もう好きに生きたらいいと思う。ほんとに。 「で、そこには何が書かれてるんだ?」 「うーん、たとえば……」  星井は片手で手帳を開いて読み上げた。 「『彼氏にファーストキスをする』」    俺は手を繋いだまま、数秒固まった。 「えっと……」 「今じゃないよ。いずれの話」 「それって、星井のほうからってこと?」 「もちろん」 「…………」  手を繋ぐくらいならまあいいかと思ったが、ファーストキス。  ……いやそれはさすがに譲りたくなくないか?  俺も男だし、何度となく最高のファーストキスのシチュエーションとか悶々と考えてきたわけだ。  で、頭の中ではある程度、理想のシチュができてたりするわけで。  「えっと、一応聞くけど、それ俺からやらせてくれない?」  俺が言うと、案の定。  ニヤリと笑って彼女は言った。 「――じゃあ、勝負だね」    俺は苦笑し、ため息をつく。  マジか。今度は”ファーストキス”争奪戦かよ。  ……どうやら、俺たちの戦いはまだまだ終わらないらしい。  俺は隣で「作戦を練らなきゃ」と笑う彼女に「勝手に帰るなよ」と苦笑しながら。  今度は逃がさないように、彼女の左手をきゅっと握った。 (了)
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