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あんな男に頭を下げなくてはいけないかと思うと、職員の女は客商売なのも忘れてうんざり感を表に出してしまった。
「大丈夫だよ。あいつが、うちの子を雑に扱ってたことに変わりはないんだから」
そう言う先輩は、ぽろぽろと涙をこぼす子どもの頭をなでていた。
「この子、俺が買い取ってもいい?」
「えっ、本気ですか? この子、欠陥品ですよ」
外側はともかく、精密な内側に湿気が厳禁な機械人形は涙など流さない。
けれど、先輩は、だからこそだと返答してきた。
「この型番、機能には問題ないのに、AI回路で稀にバグを起こすって報告が上がってて、マニアの中では人気なんだよ」
「まさか、転売する気ですか?」
「やだな。しないって、そんなもったいないこと」
こんな返しをするからには、この先輩もマニアな内の一人らしい。
「じゃあ、どうぞ。たぶん、先輩なら、点検なしの職員価格で引き取れますよ」
「よっしゃ。じゃあ、さくっと申請してこよう」
上司のところに向かった先輩の後ろを、バグった子どもタイプの機械人形の視線が追っていた。
「よかったわね。先輩が、あなたの面倒をみてくれるのですって。でも、待って。あなたが、先輩の面倒をみることになるのかしら」
職員の女は、束の間、首を捻った。
「まあ、どちらでも、たいした変わりはないわね。先輩は結構な特許を持ってるエンジニアだから、長く付き合っていけるわよ」
子どもは職員の女を見上げ、再び、男が消えていった扉を見た。
子どものバグは止まっていた。
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