0人が本棚に入れています
本棚に追加
町はずれにある廃ビルは、盛大に繁茂する細い夏草に、すっぽりと覆いつくされていた。まるで、草の牢獄だ。日が沈みかけてもなお、蒸し暑い夕暮れが、息苦しさをもたらす熱風を連れてくる。廃ビルの入口であるガラス扉は熱風に揺られて、か細く鳴いた。
ガラス扉はそっと誘うように、少しだけ開いていた。
誰かの、怯えたように息を飲んだ音が聞こえた気がして、広斗は後ろを振り返ったが、明も蓮司もスマホを操作しているだけだった。
「やっぱり、夜になってからの方が、雰囲気でるんじゃない?」
広斗が言った。
三人の少年は、肝試しのためにこの廃ビルにやって来た。夏休みの暇つぶしである。しかし、ただ廃ビルに入るだけではつまらないので、録画して動画サイトにでもあげよう、という話になっていた。
「言ったろ、夜じゃ暗すぎてカメラ映りが悪すぎるんだよ」
明がスマホを構えながら、素っ気なく言った。
「そーそー。それに古文でやったじゃん?夕方は、逢魔が時って、化け物が現れる時間だって。……ねえ、本当に何か出たらどうする?」
お調子者の蓮司は「がおーっ」と軽く吠えると、いきなり広斗の背中に覆い被さった。
「がおー!食べちゃうぞー!」
「バカ、やめろって、暑いんだからっ」
二人がふざけて騒いでいると、
「そろそろ行くぞ」
明のスマホが録画を開始した。
最初のコメントを投稿しよう!