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廃ビルの内部は、埃の腐った嫌な匂いが充満していた。砂のついた窓から射す西日が殊の外眩しく、広斗は目を細めた。日が当たっていない所との境界が、残酷なほどはっきりとしていて、建物の奥など、黒い油性ペンで強く塗りつぶしたように真っ暗だ。
三人の少年は蛍光灯が外れたエントランスを通りすぎ、狭い廊下から部屋の中を代わる代わる覗きこんだ。
どの部屋も椅子や机が、いくつか放っておかれているだけ。大したものは何もない。埃の匂い。夕日と影の対比。それのみである。
「こんなつまんない動画じゃ、誰も見てくれないや」
蓮司が大げさに顔をしかめた。
「いっそ、肝試し動画じゃなくて、廃墟動画にでもするか」
明もつまらなそうにスマホを下ろす。
廃墟動画にするにしても、ここは決して優良物件ではなかった。綺麗すぎるのだ。崩れかけた床や壁など皆無で、ひび割れ一つない。埃臭くても、匂いを動画に録ることなど不可能だ。
白けた雰囲気になった。やる気が萎んで、三人はお互いから目を逸らした。
広斗は自分から、帰ろう、と言おうかどうか迷った。怖がっていると思われるだろうか。でも、明だって撮影を止めてしまっているし、案外、すんなりと帰る流れになる気もする。
「ねえ、もう帰」
「あれ、あんなのあった?」
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