帽子の時代

3/4
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
 そう感じさせる理由の一つには、写真が白黒であるということのほかに、少女の髪型が挙げられるだろう。  前髪と平行に一裁ち、耳の下の毛が右から左へ一直線に刈られたおかっぱ頭。  高度経済成長期に<戦争を知らない子供たち>として生まれた世代のはずなのに、これではまるで戦前だ。身に着けている洋装との違和感も大きい。  後の写真を捲っていくと、女友達数人と野山で撮った写真が逆さになって現れた。  上下の向きを正しつつ見てみれば、友人たちは三つ編みにポニーテールと、現代の感覚では野暮ったくはあるものの、ブラウスやリュックサックなど服装に似つかわしい程度のヘアスタイルに落ち着いている。  そんな中で母は一人、異質の髪型に帽子まで載せていた。一部では写っている母の兄も帽子姿だ。  大正生まれで、戦後引き揚げるも病に伏して後、高齢で結婚して二児を設けた祖父の価値観によるものだろうか。  同級生の父兄より年嵩の分、古い教育方針の父親に、反発したであろう幼き母を礼香は想像する。  しかし酷暑の戦地を奔走する軍人だった彼にとっては、我が子に日差し除けの帽子を被せたのは最大限の愛情だったに違いない。  それが、撮られた景色をひどく前時代的に見せているのだとしても。  花のつぼみをひっくり返したような帽子。白黒写真ゆえはっきりしないが淡い色合いをしている。  希望の欠片も見出せない表情だと最初は呆れたが、安らぎや幸せなどとというものは、写真にはうつらない形で、確かに存在したのかもしれない。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!