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「あっあの、支えてくれた時、重かったですよね?ほんと、すみません。」
「全然。いつまででも支えていられるくらいでしたよ。」
爽やかに微笑む彼の全身を見る。確かに、細身なのに驚くくらい力が強かった。ネイビーのチェスターコートのインナーはダークグレーのバーカーで細身のデニムにキャンパスシューズを履いている。学生さんだろうか。
「あ、はは、その本当にご親切にありがとうございました。それでは。」
深くお辞儀をしてそのまま歩き去ろうとしたが、彼が隣に並んでくる。
「ビルまで一緒に行ってもいいですか?」
「え?」
「僕、同じビルで働いてるんですよ。ちなみに毎朝電車も一緒です。」
「うそ!?」
いくらボーッとしている私でもこんな光輝くイケメンがいたら気づかないわけないだろう。スポットライトを浴びているどころか彼自身がスポットライトであるかのように眩しいのだ。
「証拠見せます。いつも3両目のドアの近くに立ってますよね。それで金曜日は一週間頑張った自分へのごほうびなのか、カフェでテイクアウトしたドリンクをホームで飲んでから乗り込んできますよね。」
「・・・。」
その通りだった。
「あと、音楽聴こうとしてイヤフォン繋いでなくて間違えて音出しちゃったことあったでしょ?」
「あったあった!」
「あの曲、僕も大好きなんです。着信音にしたいけど初回限定版のアルバムのシークレットトラックだからどこの着信音サイトにもないんですよね。ライブでは定番の曲なのに。」
「そうそう!アップテンポな曲で盛り上がってまとめのバラードに行く前にクールダウン的に歌ってくれる、いい具合に力が抜ける曲だよね!アンコールで歌われる時もあるし・・・あ。」
同じ曲を好きな人に出会えて嬉しくて思わずテンションが高くなってしまいタメ口になってしまった私に、王子は優しく微笑んだ。すごく可愛い笑顔で、天使って実在するんだ・・・と思った。
そこから会社のビルのエレベーターホールに着くまでは5分くらいだったのに、好きなバンドの話で盛り上がり、お互いすっかりタメ口になっていた。
なかなか幸先の良いスタートだ───しかし、『おみくじ凶なんて当たらないじゃん。』と思えたのはこの日が最初で最後だった。
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