第1話 彼女が彼女でいられなくなった理由。

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声が出ないのは失声症という病気の一種で精神的に大きなストレスを抱えた人がなる病だと先生からは言われた。 完治するタイミングは人それぞれで、治療法としてはカウンセリングと言われたが、話を聞いていて治すのは自分の気持ち次第だと感じた。 私の心にはずっと太い刺があって毎日私の胸を抉ってくる感覚がある。その感覚が抜けない限りはきっとこの病からは解放されない。 私の為に両親は私のイトコである紗雪ちゃんこと藤村紗雪先生が教員として働いている学校に私を転校させる事に決めた。 前の高校からはかなり遠方の位置にあるし、信頼出来る紗雪ちゃんが側にいるなら安心だという理由から。 そして、今日がその高校転校日初日である。 「電子メモパッドは持ったわね?」 『大丈夫』 「じゃあ、お母さんはここで。何かあったらすぐ連絡するのよ?」 私が頷くと、母は優しく私の頭を撫でると校舎を後にした。 私を知らない人だらけの環境と分かっていても、学校を嫌悪する身体になってしまった私にはどんな学校も要塞にしか思えない。 「藤村先生、来ましたよ」 「ひなたー! 会いたかったー!」 職員室に着くと、早速紗雪ちゃんが私を暖かく迎えてくれた。 家に遊びに来ていた時はパーカーにデニムパンツのラフな格好だった紗雪ちゃんが、今や立派に教員となりカーディガンにスカートで落ち着いた雰囲気になっている事に驚く。 もう27だもんね……。 「藤村先生、学校では朝倉さんと呼ぶように」 「あぁ、そうですね。すみません」 紗雪ちゃんの顔見たら少しだけ緊張が和らいだ。 「先生方にはちゃんとひなたの病気の事説明してあるから。学校全体でサポートするから安心してね」 『ありがとう』 「おや、藤村先生がいつもより明るい声を出しているから何かと思えば……」 職員室の奥の部屋から初老の男性教員が現れた。 「こ、校長先生っ」 「はじめまして。朝倉ひなたさん。校長の山岸です。お母様と藤村先生から今迄の事、全てお聞きしました。とても大変でしたね。何か困った事があればいつでも私達に話してくださいね。力になりますから」 亡くなった祖父に似た雰囲気の校長先生だと思った。 だけど、前の高校で先生達から苛めを見て見ぬ振りされた私は信じて良いか分からなかった。 人間不信は膿のようにまだ私の中に強く残っている。簡単には除去できない感情だ。
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