君だから

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 慎二は、緊張で強張(こわば)っていた肩の力が抜け、自然に笑みが溢れた。 「シン、俺の方こそ、ありがとう。わかったんだ。シンのおかげで」 「俺の……?」 「うん。気づいたんだ。自分の気持ちに。だからシンのおかげ」    慎二は、優斗から逆にありがとうと言われ、とても不思議な感覚を覚えた。  優斗が気づいた気持ちとはいったい——?  まるで謎解きのように、優斗の話に引き込まれていく。 「俺は、何に、イラついていたのかやっとわかったんだ」  優斗の声のトーンが、変わった気がした。 「本当は、あのとき、高宮と付き合うなってシンに言ってほしかったんだって思う」 「え?」 「それなのに、『付き合えばいいじゃん』なんてつっかかるし、翌日から俺を避ける感じでよそよそしいしで、てっきり、シンが高宮を好きなのかなって誤解して、ずっとヘコんでたんだなってこと……」    予想もしていない言葉だった。 高宮と付き合うなと言って欲しかった……?  どうして?  優斗がずっとヘコんでいた……?  それって……    慎二は、思考をめぐらせ、いっぺんに出された謎解きの答えのピースを繋ぎ合わせる。  自分に都合のいいことがあるはずがない。  そう否定しても、心のどこかでは、わかっているのか、胸が次第に高鳴っていく。   「これ以上うまく、説明できないよ……」  言っていることが伝わっていないと思ったのか、優斗は瞬きを何度もした。 「なんっつうか……その……わかんないかなあ……」 「えっと……」  吸い込まれそうなほど、自分を見つめる優斗の眼差しが輝きを放ち、何か言いたげな表情を醸し出している。  慎二は、その瞳の奥を覗き込むようにして、息を呑んだ。 「だからっ、俺は……おまえがっ、好きだってこと!」  慎二は、一瞬、耳を疑った。  あれほど、一番聞きたった言葉。求めていた言葉なのに。  同時に、心臓が大きく跳ね、優斗の声が電流となって、体全身を駆け巡る。 「ユウ……今、何て……」  言葉が続かない。  ずっと押し留めていた優斗への想いが熱くせり上がり、今にも溢れ出そうになる。 「自分の気持ちを整理してちゃんと伝えたかったから、この日を待ってた。学校なら、必ず会えるから」  ずっと自分のことを考えて、悩んでいてくれてた。 「今日、シンが先に帰ったらどうしようって思ってた……」  そんな優斗がとても愛おしくて、今すぐにでも抱きしめたい。    ユウ、ユウ、大好きなユウ——    心臓を突き上げ、胸を締め付ける。  瞼の奥から熱い波が押し寄せてくる。 「勘違い……してない……?」  慎二は、やっとのことで言葉を絞り出した。 「勘違い?」 「親友だから好きっていうのと勘違いしてない?」 「夏休み中ずっと、考えてた…… 男が好きとか女が好きとか、そういうの良くわからないけど。でも、胸が痛くて、シンのことを考えると苦しくて……」   優斗は、シャツの胸の辺りをぎゅっと掴んで、瞳を潤ませ、熱く語りかけてくる。 「シンが、好き……なんだ。親友だからじゃない。シンだから好きになったんだ! それじゃ、ダメかな……」    慎二は、頭を思いっきり横に振った。  同性を好きなのはおかしくて、異性が好きなのが正常。それは、世間が決めた常識で、本当は個々人違ったっていい。  何が正しいのかは、それぞれの中にあるのかもしれない。  好きになった人がたまたま男だった。多分、自分も優斗もただそれだけのことなのだ。 「シン、今でも俺のこと好きでいてくれる?」 「あ、あたりまえだろっ」 「シンは、どうして、俺なの?」 「優斗だからに決まってるだろ!」  俺だって、優斗だから好きになった。他の誰もじゃない。優斗だから…… 「ありがと、シン。好きだよ……」  優斗に甘く見つめられ、慎二は、ずっと一途に身を焼いたその切なさに、涙が溢れた。  ああ——  好きな人に、言われる『好き』は、なんてこんなにも胸を熱く、胸を焦がす。  好きという言葉が、こんなにも心を震わす。 「俺も……ユウが好き」    小学生の頃、優斗が好きだと自覚するようになってから、長かった遠い道のり。  慎二は、叶うはずもないと諦めていた想いを噛み締めながら、熱く流れ出る目頭を押さえた。
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