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後戻りはもうできない
8月に入り、夏休みはそろそろ中間地点に達しようとしていた。
優斗に話しかけよう。そう決意してみては、やっぱり、ダメだ…… と、慎二の心は定まらず、まるでシーソーゲームのように、右、左と揺れ動いていた。
何か、きっかけがあれば……
携帯のメール画面を開き、文字を打っては消してを繰り返す。そうやって、ずるずると日が経ってしまっていた。
「ここ特製のブルーベリージュースを一番好んで飲んでたらしい!」
慎二の父は自慢げに顔を綻ばせた。
父に連れられてやって来たのは、軽井沢にある名の知れた喫茶店。
店は、街から離れた静かな山道の途中にあった。豊かな緑の中に溶け込むような佇まいで、涼しげな緑が風に揺れて心地良さを演出している。
イギリスの有名なロックグループで、ロックの神様と呼ばれていたボーカルが、生前、避暑地として軽井沢を訪れた際、良く通っていたという。
慎二も、父親の影響でそのロックグループの曲を好きになり、良く聴いていた。
「へえ、ここに座って、ブルーベリージュースを飲んでいたんだね!」
母も、姉も興味津々で店内を見渡したり、メニューを眺めたりして楽しそうだ。
2泊3日の短い期間ではあったが、初めての軽井沢で、久々の家族旅行を満喫した。その最終日には、古くからあるこの喫茶店を訪れることを、家族全員、とても楽しみにしていたのだ。
母と姉は、ブルーベリージャムのかかったバニラアイス、父と慎二は、もちろん、ブルーベリージュースを注文した。
テラス席で、涼しげな小庭を眺めながら飲むブルーベリージュースは最高だった。
「うん、父さん、美味しい!」
これが、あのロックの神様が飲んでいたのと同じブルーベリージュースなのか……
新鮮だが、とてもどこか懐かしい。
喫茶店を流れるゆったりとした時間の中、ブルーベリーの甘酸っぱさが慎二の心に優しく溶けていくようだった。
……そうだ、ここで優斗に土産を買っていこう!
素直な思いつきだった。
慎二は、帰り際、喫茶店で、優斗の土産として持ち帰り用のブルーベリージュースの瓶を2本購入した。
明日、優斗に渡そう——
夏の軽井沢…… 目に入る景色、その空気感、家族と有意義に過ごした時間が、頑なな慎二の心を軽く解きほぐしてくれたのかもしれない。
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