君だから

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「こんな感じで部屋割りしてみました!」  三上が、1階の大部屋で、部屋割り表を広げた。毎年1年生が主体となって親睦会を運営し、2、3年生はそのサポートをする役目だ。  今年は、男子部員2名、女子部員2名と豊作で、とても賑やかな親睦会になりそうだ。  毎年恒例、慎二たち写真部の親睦会は、2泊3日の予定で泊まり込むことになっている。昨年は、海の家だったが、今年は、山のバンガローになった。  そのバンガローは、小高い山に数か所あるうちの一つを、安く借りられることになっている。もう少し上の方に行くとキャンプ場もある。近くには透明感のある川が流れ、周りは林に囲まれた自然豊かな施設だ。自炊施設も整っている。  毎年、写真部顧問の教師1名と、写真部OBが引率するが、今年は、OBでもある教育実習生1名が加わることになり、部員7名の合計9名で参加している。  この3日間、することは、寝食を共にし、日中は、写真の心得がある顧問、OBと部員らそれぞれが、被写体を探し、各自、自由に写真を撮る。  夜は、各自撮影したデジタル写真をスクリーンに拡大して見せ合い、その出来栄えや、写真技法、こだわりについて語り合うことになっている。全く真面目な親睦会だ。合宿と言った方がいいのかもしれないが、あえて、親睦会とするところが力が入らなくていい。    森のキャンプ場に到着したのは午後3時頃だった。   「それじゃあ、夕食は午後5時だから、その時間になったらここに集合!」  顧問も写真部のOBで、写真歴が長く、この親睦会を毎年楽しみにしているらしい。  部屋は1階と2階にふた部屋あり、もちろん、女子生徒2人は2階の部屋一つに。他は1階の大部屋兼キッチンと2階の部屋に分かれた。  慎二は、三上と教育実習生のOBと同級生1名の4人で2階で寝ることになった。 「じゃあ、みんな自分の部屋に荷物置こう」  慎二は、部員に声をかけると、2階の部屋へとリュックを背負い階段を上がった。  部屋には、2段ベッドが向かい合うように並び、ドアの横には荷物を置く棚があるだけの簡素な部屋だが、2泊3日の合宿にはちょうどいい広さだ。 「部長はどこに寝ますか?」 「どこでもいいよ、三上から先に選んで」  慎二と教育実習生が1段目で、慎二の上が三上になった。   「なんか、修学旅行みたいですね!」  一年生にとっては初めての親睦会だ。三上は、子供が初めての体験をする時のように目を輝かせていた。  慎二も、三上から伝染したのか、久しく忘れていたようなワクワクした気持ちになった。 「それじゃあ、好きに写真を撮りまくろう!」  2日目の朝、食事を終えた後、顧問の合図で、それぞれカメラを持って本格的に被写体探しを開始した。  昼食は、朝のうちに用意したおにぎりを適宜食べ、夕食のバーベキューの時間までは、自由行動となっている。  戸外に出ると、朝というのに日差しは強く差していた。慎二は、トレッキング用ハットを被り直した。  それでも、青空には大きな雲がふんわりと浮かび、日差しを遮るように木陰が涼を呼び、気持ちがいい。都会と違い、セミの声まで大きい気がする。  慎二は、ひとりで高台まで歩いてみることにした。    高台の東と西に展望台がそれぞれあり、慎二は、東側の展望台へと続く緩やかな小道を歩いた。  木々で覆われ、立ち止まって見上げると木漏れ日がキラキラと輝いていた。  綺麗だなと思いすぐにシャッターを切る。  またしばらく歩いて、道端に咲く小さな黄色の花に目が止まり、シャッターを切る。  慎二は、「撮りたい!」と思ったら、心の赴くままにシャッターを切りながら歩いた。  高台に着くと、丸太造りの2階建の展望台があった。ベンチが備え付けられて、食事ができるスペースもあった。先客がちらほらと休憩したり、景色を見たり、記念写真を撮ったりしている。    高台の端、柵の方まで歩くと視界に森が広がった。  慎二は大きく伸びをして、ペットボトルの水を飲んだ。    展望台の一番上は、どういう景色が見えるのだろう。  はやる気持ちで、階段を上がり、展望台の上に立った。    山、森や川、田畑、遠くに見える町、またその先の海。  360度の大パノラマが目に飛び込んで来た。  少しずつ、体を回転させながら、ボーッと眺めていても全然飽きない。ずっと、見てられる。    気持ちがいい——    その景色の中、カラフルな色のハングライダーが優雅に飛んで行くのが見えた。  シャッターチャンス!  慎二は、高揚感の中、カメラのシャッターを切った。
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