君だから

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 バーベキューでお腹いっぱいになった後、大広間に集まり、今日一日かけて撮った作品の試写会を行った。  各自、自分が撮った写真に、感想などのコメントも加えてそれぞれ発表してゆく。  構図が難しかったとか、花を中心に撮ってみたとか、撮影時のこだわりやエピソードなどが聞けて面白いし、スクリーンに映し出される画像は、どれも個性が溢れていた。  自然に囲まれた鮮やかな夏の風景、先ほどのバーベキューを食べている瞬間さえも逃さず捉えた写真も加わり、大広間には、ずっと歓声が響いた。  慎二は、同じ風景なのに、被写体の構図によってこうも違って見えるのかと感心したり、自分が知らない場所や被写体に驚いたりと、楽しい時間はあっという間に過ぎた。 「うん、みんな、いいできだった! ハートで捉えてる!」  写真は頭じゃなく、ハートで捉えろ。が顧問の座右の銘。顧問も心の底から感心したという思いが伝わってくる。  慎二は、部員それぞれが、生き生きとして写真に向き合っていることが嬉しいと思った。いや、自分自身が一番、嬉しかったのかもしれない。写真をやっていて、素直に良かったと思った。 「一年は、初めてにしては、良く被写体を捉えている。将来が楽しみだな。まあ、三上は、別格だがな」  顧問の言う通り、三上はここにいる全員を感動の渦に巻いた。中学生の頃、写真アマチュアコンテストで2度、準優勝を取る腕前だ。本人は、優勝していないから満足していないようだが、三上の写真は、見ると、やはり、違うとわかる。 「今年また、アマチュアコンテストがあるから、みんな挑戦するといいぞ!」との顧問に、皆色めきたった。  慎二も、自分の写真がどう評価されるのか、アマチュアコンテストに挑戦してみたい気持ちはあるが、だめだと烙印を押されるのが怖くてずっと応募を躊躇(ためら)って来た。何事も、失敗を恐れず行動することが大事だとわかっているが、今まで、なかなか踏み出せないでいた。 「岩井は、あの、ハングライダー、いい感じに捉えてたな!」と突然、顧問に慎二の名前を出され、皆が、そうそうと頷き、緊張が緩んだ慎二の心をくすぐる。 「青空とハングライダーの色のコントラストに、構図がとても目を()きました!」と三上の褒め言葉が、くすぐったさに輪をかけた。    写真部親睦会のメイイベントはお開きとなり、あとは、就寝時間まで、適宜自由時間になった。1階の大部屋では、トランプゲームを興じたり、おしゃべりで花を咲かせたり、修学旅行のように名残惜しい夜を楽しんでいる。  慎二は、星空を見たいと思い、雑談の輪を途中で抜け、ひとり外に出た。    戸外に出ると、虫やカエルの音が大きく響いている。    見上げた夜空には、星が広がり、輝いている。  都会だとこうは見えない。写真マニアなら、一度は撮ってみたいと思う星空が広がっている。  慎二は、広角レンズで撮ってみたいな! と、思った。とそのとき、 「部長、展望台まで行きましょう! ここよりもっと凄いですよ、きっと」  三上が背後から星を見上げながらやって来た。 「三上、それ?」 「広角レンズです。もちろん、星空を撮るために持ってきました!」と、三上は手にしたカメラを無邪気に見せた。 「やっぱ、流石(さすが)三上、準備がいい」 「そんなことより、早く行きましょう!」と三上に左手首を引っ張られた。 「どっちの、展望台に行こうか」  慎二は、三上に左手首をいきなり取られ、ドキリとした。 「部長は、昼間は東側に行ったんですよね。それじゃあ、西側に行ってみましょう!」    三上が率先して歩いて行く。  足元は、星空を邪魔しない柔らかな緑色の光が点在している。  夏の夜、虫たちの声が高鳴る。  慎二は、三上の背中を急ぐように追いかけた。    
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