君だから

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               星降る夜  西側は、東側と違って少しきついな……  慎二は、汗を滲ませ、森林に囲まれた急勾配な遊歩道と階段を交互に歩いた。  少し息も上がり、三上の背中を追いながら自然と無口になっていた。 「部長、凄いです!」  先に到着した三上の声に、最後の段を登り切ると、視界が一気に開けた。 「凄い!」  星が降って来る。  一瞬、そう思った。  満天の星とは、こういうことを言うのだろうか。  無数の星が群をなして青白く光り輝き、星々の瞬く光の雄大な、夏らしい力強さ。  東の方向には天の川が、紫とも青とも表現し難い広大な裾野を広げ、光の集まりを演出している。  慎二は、一言発しったきり、ただ、ただ、360度、夜空を仰ぎ見た。    まるで、天然のプラネタリウムの中にいるみたいだ。  星空の知識はそれほど詳しくはないが、プラネタリウムや図鑑などで見たまんまの、本物がまさに、今、目の前に広がっている。そう思うと、興奮を抑えきれない。 「三上、あれが、天の川で、これが夏の大三角形だよな」 「部長、じゃあ、北斗七星はどこですか?」 「ほら、向こう。7つあるのが見えるだろ? 1、2、3………」 「ほんとだ、ちゃんと、7つありますね。へえ、こんなに大きく見えるんですね!」 「本当は、こんなに、たくさんの星が輝いているんだな。都会では、ただ、見えないだけなんだ……」 「そうですね」  三上は、カメラを構え、シャッターを切った。  360度体を回転させながら、写真を撮る姿は様になっている。 「部長も、撮ってみます?」 「え? 広角レンズで撮ったことないんだ」 「大丈夫です。触ってみるのが大事ですから」 「じゃあ、やってみようかな」  慎二は、三上から手渡されたカメラの重みを感じた。  初めて手にする広角レンズを構え、ファインダーを覗く。星空はまるで迫ってくるようだった。  しばらく、2人で、星空の写真を数枚撮り合った後、近くのベンチに腰掛けた。 「ここに来て良かった。三上、ありがと…… 誘ってくれて……」 「いえ」 「俺も、広角レンズ、買ってみようかな……」  涼しい風が吹いて、慎二のTシャツの汗を吹き飛ばして行く。自分も、三上のようにもっと、写真の腕を磨きたいと思った。 「三上って、カメラを始めたきっかけって何?」一度は聞いてみたいと思っていた。あれだけ、カメラにこだわり、準優勝を狙えるくらい写真を始めるきっかけは何なのか。その原動力を素直に、知りたいと思った。  三上は、すぐには、答えず、しばらく、夜空を見上げて考えているようだった。    聞いてまずかったかな……  三上と打ち解けたつもりになっていたが、それは自分だけで、今聞くべきことじゃなかったかな……  慎二は、あれこれと考えていると、  三上が、真剣な瞳で突然こちらに向き直り、思いもよらない言葉を発した。 「岩井先輩のことが、好きです」 「えっ!」三上の慎二の予想を遥かに超えた言葉に、慎二は、気が動転してしまった。  
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