君だから

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                新学期 「おはよう」  教室に入ると、クラスメイトの元気そうな顔が揃っていた。  日焼けした顔、髪を短く切って見違えた者、大人びて見える者、夏休み明け、新学期ならではの真新しい雰囲気に、慎二は、気持ちが浮ついていた。    でも、本当の理由は…… 「おはよ」  慎二の心臓が跳ねた。 「優斗、ひっさしぶりー!」慎二が、後ろを振り返ると、数名のクラスメイトが優斗に声かけ、ハイタッチするのが見えた。  久しく耳にした愛しい声、その笑顔。  鼓動が激しく脈打ち始めた。    いつもなら、優斗と普通にメールしたり、一緒に出かけて遊んだ夏休み。  結局、あの告白した日からメールのやりとりもなく、新学期当日を迎えてしまった。    まるでスコールのように、今年の夏は、あっという間に過ぎ去ってしまった。  優斗と一緒に過ごせなかった夏が、あまりにも短くて、切ない。  優斗は、あれからどういう気持ちで過ごしていたのだろうか。  親友と思っていた男が、実は、自分のことを恋愛対象として好きだったことを知ってしまったのだから。  優斗は、普通に挨拶してくれるだろうか。  自分とどう接していいのかわからないだろうか。  とにかく、お互い避け合うようなことにはなりたくない。    自分だけでも普通にするんだ。普通に……    新学期が近づくにつれ、慎二は、ずっとそう言い聞かせていた。  しかし、実際、優斗を前にして、緊張で心が固くなりそうになった。心臓の鼓動が激しく、緊張感に追い討ちをかける。  慎二は、汗で滲んだ両手をぎゅっと握り、自分の二つ斜め後ろの席に着こうとする優斗に向かって声をかけた。 「よっ、ユウ、おはよ」笑顔で軽く手を振ってみせた。 「あっ、おはよう」優斗も心なしか、緊張したように見えたが、微笑み返してくれた。    良かった。  ひとまず、普通に挨拶ができた。    慎二は、ホッと胸を撫で下ろし、カバンの中身を整理して、机の中を整える。  とりあえず、今日一日、乗り越えれば…… 何とかなる。  ホームルームが始まる前の、(ざわ)つく教室。  慎二は、頬杖をつきながら、窓の外を眺めた。  
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