君だから

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 秒針が時を(きざ)み、心臓が高鳴る。  慎二は三上と向き合って座り、日誌を書きながら、まだ居残っている女子部員の背中を息を潜めて見つめた。  三上も写真を整理する手を止めて、顔を見合わせる。  女子部員は、撮った写真一枚一枚をじっくり見てから封筒に入れるという具合で、慎二は、ジリジリとした気持ちで、視線を壁時計と女子部員の背中との間を何度も行き来させていた。  写真の擦れ合う音だけが響く。 「部長、整理終わりました」 「あ、そう? 遅くまでごくろうさん」 「部長と三上さんはまだ残られるんですか?」  優斗との待ち合わせの6時まであと3分と迫っている。 「そうだね、この日誌書いたら帰るよ」 「私が何かお手伝いすることはありますか……」 「いや、特には…… ない…… よね」  三上に目配せして同意を求めた。 「そうですか…… じゃあ、私は、お先に失礼します」  女子部員は、慎二と三上が向かい合って座っている異様な空気の中で、自分の存在の悪さに気付いたようだった。  椅子に置いてあった学生カバンを取り上げ、急ぐように部室を出て行く女子部員の背中を、慎二は申し訳ない気持ちで見送った。  女子部員が帰るなり、慎二は即座に立ち上がり、窓から体育館の方へ視線を飛ばす。  バスケ部はまだ終わっていないようだ。  もし、練習が終わっていたら、体育館の玄関前やその周辺に数人が給水しながらたむろしているはずだが、その姿は見えない。    まだ、大丈夫——  確認して安堵していると、背後から三上もやってきて、慎二の横で同じように窓の外を眺めた。 「部長、何かありました?」 「あ、三上、ごめん、残ってもらってて……」 「いえ…… もしかして、優斗先輩のことですか……?」  理解が早い三上に、慎二はほっと心が(ほど)けた。今日一日あった出来事を聞いてもらいたい。  慎二は、刻々と迫る時間を気にしながら 「うん、実は……」と言いかけたその時だった。  背後で部室の引き戸がガラっと大きく開く音がした。 「シン!」  名前を呼ばれ、振り返った先にジャージ姿の優斗が立っていた。
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