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時計の針は6時3分前。
約束の時間はまだなのに、しかもナゼここに?
慎二は、想定外のことに、言葉が出なかった。
まさか優斗がここに来るとは全く予想していなかったからだ。
優斗は、息がかなり上がっているようで、4階のこの部室までよほど早く駆け上がって来たのだろう。
バスケで鍛えているほどの優斗なのに、それがとても不思議に思えた。
それに、試合中に見せる、あの真剣な瞳が今、自分に向けられているのも。
「ユウ、どうしてここ…… はっ?」
優斗が傍に駆け寄って来て、右手を伸ばし、慎二の左手首を掴んできた。
どうしてここに来たのか——
慎二は、そう聞きたかったが、言葉を続ける余裕すらない。
慎二は、今この状況を瞬時に考え巡らせ、やっとのことで出た言葉は、優斗の意外な行動で喉につかえてしまった。
「シン、行こう!」
慎二の左手首を優斗がギュッと強く握り締めてくる。
汗ばんだ優斗の手のひら。その熱が、皮膚を通して直に感じる。
「ちょっ、ユウ!」
「すまん、シン連れて行くね」と優斗は三上に軽く会釈すると、半ば強引に、慎二を三上の横から引き離すように手首を引いた。
「待って、カバン」
慎二は、優斗に左手首を引かれたまま椅子からカバンを急いで取り上げた。
「三上、ごめん、先帰るね」
三上なら後で説明すれば、わかってくれるだろう。いや、説明しなくても、もう、この状況を理解しているかもしれない。
微笑みで返す三上をあとに、慎二は優斗に連れ去られるようにして部室を出た。
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