君だから

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 薄暗くなった体育館。ひっそりと(しず)まり、キュッ、キュッとくつ音だけが反響する。  男子専用の更衣室は、体育館の出入り口すぐ近くにある。  優斗がドアを開くと、運動部らしいムンとした汗の匂いがすぐに鼻に飛び込んで来た。  湿度が高めで、もわっとした空気感。  明かりを点け、誰もいない静けさの中、慎二は、緊張した面持ちで、優斗の後に続いた。    運動部の更衣室は、滅多に入ることはない。今まで入ったことがあっただろうか。全く思い出せない。それだけ、文系部の生徒にとっては聖域なのだ。  だから、慎二は、内心、初めてのような気持ちで足を踏み入れた。    こじんまりとした中に、ぎっしりと列をなして並ぶロッカーに、まず圧倒された。 「ロッカーけっこう古いんだな……」何か話さないと落ち着かなくて、慎二は、独り言のように呟いた。  優斗は慣れたもので、そそくさと奥の方へ入って行く。    慎二は、そびえ立つロッカーのビル群に、一人立ち往生していると、奥の方から優斗の声がした。 「シン、さっきは、驚かせてごめん」  姿は見えず、声だけが聞こえる。 「先に帰ったと思ったんだ。だから、部室に行って確かめようと思って…… 行ったら、シンがいたんだ……」  ガサゴソと物音を立てながら、慎二の返事を待つまでもなく話を続ける優斗。    優斗がなぜ写真部にやって来たのか。息が上がって、表情に余裕がなかったのか。その理由が今わかった。  先に自分が帰ってしまったと思い込んだということ。それで、咄嗟に部室まで走って来たのだということ。  優斗は、自分の行動が、今頃になって、決まりが悪くなったのだろうか。  弁明する優斗が健気に思えた。  謝る必要なんてない。驚いたが、嬉しかった。そう言いたいが、声に出せない。  でも、どうして、自分が先に帰ったと思ったのだろう。  素朴な疑問が浮上する。 「まだ6時前だったんけどな……」  慎二は、何気なく言葉を漏らした。
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