君だから

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「それでは、みなさん、体調管理には十分に気をつけて、楽しく充実した夏休みを過ごしてください」 「はーい」  静かだった教室が一斉に歓喜のざわめきへと変わった。ホームルームが終わるや否や、カバンに持ち物を突っ込む者、仲間同士集まる者、すぐに教室を出る者、自由への期待と開放感で色めきたっていた。  クラスメイトがドタバタと走る音、机や椅子が床に軋む音、慎二だけはその雰囲気に溶け込めずにいた。    それにしても、写真部の集まりが本当にあって良かった。嘘をつくのはあまり上手くないからだ。  今の自分にとって、部室が安全基地のような気持ちだった。    部室に早く行こう……  慎二は、急いで机の中のものを無造作にカバンに入れた。  優斗に声かけらる前に……  気だけが焦る。  後ろを振り返ると、後ろの出入り口付近で優斗が何人かの男子生徒と破顔でしゃべっていた。    まずい、優斗がいる……  写真部の部室に行くなら、慎二の席からだと、後ろの出入り口を通って行くのが普通だ。だが、このままだと優斗の傍を通って行くことになる。前の出入り口から出るのは、遠回りで不自然だ。まるで、優斗を避けているみたいだ。  自意識過剰——  慎二は、誰も見ていないとは思っても、バカみたいに、教室から出るのを少しの間躊躇(ためら)っていた。    慎二は意を決し、後ろの出入り口を目指した。  斜めがけにしたショルダーカバンをぎゅっと掴み、急ぎ足で進む。  なんで、自分がこんなことまでしなければいけないんだ——  堂々とできない自分に苛立ちながら、今はどうしようもない。    優斗の傍をすれ違いざまに、優斗や他のクラスメイトにまとめて「じゃあな」と声をかけ、逃げるように教室を出た。  背中から優斗が自分に何か言ったような気がしたが、気づかないふりをして振り返らなかった。  とにかく、今は話したくない——    慎二は、やっとの思いで教室から遠のいた。
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