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影内真琴
初めて訪れるその部屋はS台市にある高級マンションの最上階にあった。
影内真琴(かげうち・まこと)は一階の呼び出し用インターホンの前に立ち、ほうっと息をつく。
小さくて肌の白い顔。ちょこんとした鼻に、ぷっくりとした桜色の唇。だがその美貌を台無しにするほど分厚い眼鏡をかけている。やや伸び気味の黒髪はまっすぐで、滑らかな額や、可愛らしい耳や、ほっそりとした首まで隠している。小柄で若く健康そうな体躯をしており、黒蜜を固めたような丸い瞳は緊張と期待できらきらしていた。
アルバイト先のロゴが入った柿色のジャンパーをきっちりと着て、下は綿のベージュのズボン。手には同じくロゴ入りのトートバックを持っていた。
すれ違う住人たちは場違いな眼鏡の青年に気付くと、おや、と眉を動かすが、しかし彼から漂う不思議な魅力を察知して、思わず足を止めてしまう。ぱっと見たらもっさりとした冴えない青年なのに、真琴には人の目を引く何かがあった。
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