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来たな
自宅で印刷した原稿を胸に抱え、期待でドキドキしながら扉をノックする。
(一体どんなことを教えてもらえるんだろう)
どうぞ、と声がして扉を開けた。
橙色の間接照明が光る薄暗い部屋だった。現在はカーテンが閉まっているが、大きな窓を正面にどっしりとした高級そうな木目の机が設置されている。左右の壁にはぎっしりと本が詰まった棚。背表紙には鷹城吾郎と〈すずき鷹夫〉の名前がずらりと並んでいる。昨日片付けたばかりだというのに、机の上はゲラや、開きかけの本や、ペンで散らかっていた。右側に置かれたデスクトップパソコンの画面は白々と光り、執筆の途中だったのが窺(うかが)える。
「来たな」
くるりと椅子を回転させて鷹城が振り返った。
「よろしくお願いします。これ、原稿です」
真琴はドアを閉めて中に入った。そして鷹城に左端をクリップで留めた原稿を渡す。
ふむ、と鷹城は原稿を受け取り、題名を一瞥した後そのまますぐ机の引き出しに入れた。真琴があっ・・・・・・、と思いながら見ていると、なぜか口の端を引き上げて愉しそうに向き直る。
「読む必要はない」
鷹城が言った。
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