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副支店長からマイクを預かった課長が、
「かくし芸大会のオーラスは、支店長と副支店長です!」と言うと、2人は舞台に上がっていった。
支店長はこちら側を向き、舞台の上で胡坐をかいて座り、その横で副支店長は、こちら側を向き立っている。
「ではお願いします!」と課長の声が響くと、
「はい!」と大きな声で返事をした副支店長は、
浴衣の前を広げ、履いているパンツに手を掛けた。
すると勢いよくそれを下までおろし、下半身を丸出しにした。
もうそれだけで宴会場は職員達の笑い声に包まれたが、(かくし芸大会なのに、かくしてないじゃないか!むしろ晒しているじゃないか!)
と、僕は突っ込みそうになった。
副支店長はおもむろにその姿のまま、支店長の背後に立った。
(何が始まるのか?)僕はドキドキしながら見ていると、
少し背伸びをした副支店長は、自身の晒した下半身から一物を握ると、あろうことか、支店長の禿げた頭頂部にそれを乗せた。
そして、2人は声を合わせて「チョンマゲ!!」と叫んだ。
その瞬間宴会場は今までにないくらいの爆笑に包まれた。
確かに、禿げた支店長の頭に乗っている副支店長のソレは、チョンマゲに見えなくもない。
笑っていないのは、この出来事に驚いている僕と、冷ややかな目で見ていた❝お華❞さんたちだけ。
笑いながら舞台から降りてくる支店長と副支店長の姿に、僕は不思議な感動を覚えていた。支店長の口癖が頭の中にこだまする。
「何事も一生懸命やれ!」
(そうなんだ!仕事だとか遊びだとか関係ないんだ!一生懸命やるからこそ、こんなにも人を笑わせることができ、感動もさせるんだ!一生懸命やれば、きっとお客様の気持ちだって動かすことができる!)
僕は、(適当にやればいいや)と思っていた自分をひどく恥じた。
あの後、僕は疲れ果てて部屋で寝てしまったが、先輩の話を聞くと、3人の❝お華❞さんを連れて、2次会のカラオケに行ったが、支店長が❝華❞が足りないと言い出し、追加で❝お華❞さんを呼んだところ、枯れかけた❝お華❞が来たものだから、「誰だ!?食虫植物を呼んだのは!」と怒りだし、大騒ぎだったらしい・・・
今は帰りの電車で揺られている。
この厚生旅行は僕にとっていいきっかけになった。
まだまだ学生気分が抜け切らない自分にとって、社会人としての心構えを教えて貰ったような旅行だった。
僕は心に誓った。これからは何事も一生懸命取り組もう。
そして、厚生旅行での汚名は、厚生旅行でしか晴らせない。
僕はリベンジのために、手品の勉強をはじめた。
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