チョンマゲ

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全員で宿が用意してくれた宴会場に入ると、そこにはすでに3名の❝お華❞ いわゆるコンパニオンさんが座っていた。2列に並んでいる机に、順に支店長・副支店長・課長と、序列順に座っていき、当然僕は一番端に座った。 支店長のありがたいお言葉(何言ってるのか分からない)の後、副支店長がビールの注がれたコップを持ち、全員で「カンパ~イ!」と、宴が始まった。 料理も美味しいし、❝お華❞さんもいるので、みんなお酒も進み、宴会も盛り上がっていた。すると1時間たった頃に、副支店長がマイクを持ち、 「それでは恒例のかくし芸大会を始めま~す!」と開会が宣言された。 当然新人の僕が、トップバッターということで、宴会場の舞台に上がった。 ワー!ガンバレー!脱げー!と、 声援なのかヤジなのか分からない声が響く中、 スタンドマイクの前に立ち、僕は 「なんだバカヤロウ!コマネチ!」とモノマネをした。 一瞬、宴会場が静まりかえると、すぐに罵声に包まれた。 「てめーもっと真面目にやれー!」「ふざけるなー!」と、 “おひねり”どころか“おしぼり”が飛んできたので、 慌てて舞台を降りて、謝りながら自分の席に戻った。 「お疲れ様でした。」と❝お華❞さんの1人が、 コップにビールを注いでくれた。 「まぁ新人はこんなものです」と言って、副支店長が場をおさめ、 次の順番である若手職員を指名した。 するとその若手職員5名は、いったん舞台の端に隠れた。 しばらくすると、シルヴィバルタンの「あなたのとりこ」が流れ始めた。 曲が流れると、海パン姿に水中メガネをした5人が、舞台に飛び出してきた。 そして曲に合わせて、エア・シンクロナイズドスイミングというか、なんなのか分からないが踊り始めた。しかしそれは即興でやったとは考えづらく、かなりの練習をしたことが分かるほど、息がピッタリと合った踊りだった。 支店長や副支店長は彼らの踊る姿に、腹を抱えて笑っている。 僕はというと、(毎日遅くまで仕事をしているのに、いつ練習してたんだろう)と不思議な思いでその踊りを見ていた。 曲が終わると宴会場は拍手に包まれ、舞台を降りた5名は、 それぞれ支店長とガッチリ握手を交わし、席に戻って行った。 続いて課長の番となり、舞台に上がった課長は、どこから用意したのか手にはギターを持っており、だいぶ古いが、ギター侍の真似を始めた。 支店職員を「残念!」と言って切っていく姿に、宴会場は大いに盛り上がった。あげく支店長の髪を揶揄して、「残念!」と切ったときには、 僕は心配でドキドキしたが、言われた本人はどこ吹く風で、ゲラゲラと笑うだけだった。 そして、いよいよかくし芸大会は、支店長と副支店長の2人を残すのみとなった。
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